43人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな慌てなくても一本道なのだから、すぐにそこまで辿り着くというのに、こちらに向かって歩いて来る黒髪短髪のやたらガタイのいい男は、年の離れた幼馴染だ。
歳は五つ上だが子供の数自体が少ない田舎のこと、自分にとっても相手にとっても、お互いが唯一の幼馴染なのだ。
「ただいま、トラ」
そばまでやって来て、ニコニコと頷いているトラこと虎太郎は神社の裏に小さな家を持ち、神社の管理を主に年寄りの多いこの辺りの便利屋のようなことをしている。
そんなトラは毎日の日課と決めているのか、こうして必ず学校帰りを出迎えてくれるのだ。
今日はここでの出迎えだったが、日によっては麓のバス停まで降りて待ってくれていることもある。
「学校どうだった?」
そして、必ずそう問い掛ける。
「うん。いつもどおり、今日は体育の授業があって暑かった」
「そうか。たしかに今日は暑かったな」
「トラは?」
「今日は神社の裏の草刈りをしていた」
「それはご苦労様」
簡単に今日の出来事を話し、並んで歩く。
神社まで帰れば、自宅はもう目と鼻の先だ。
ちょっと前まではツグミの家の番犬のシロも、トラに連れられて迎えに来てくれていた。
日本犬の血を色濃く引いた雑種のシロは、ツグミが幼いころから祖父母の家にいるオスの白い大型犬だ。
毛色が白だから名前もシロなんて、名は体を表す以外の何物でもないが、それでもシロは昔からツグミにとっては大切な家族だ。
最初のコメントを投稿しよう!