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 トラとは小さなころから一緒だった。  途中何年かツグミはこの地にはいなかったけれど、再び帰って来てからも関係は変わらず続いている。  お互い一人っ子同士で同性という理由もあるだろうが、近所に歳の近い子供がいなかったという結果によるところも大きいはずだ。  それに加えて、ツグミの見解としてはトラは性格的にとにかく面倒見がいいのだ。それについつい甘えてしまっている自覚もある。  兄弟のいないツグミにとって、トラは幼馴染というよりは兄といったほうがしっくりくるし、トラはトラでツグミのことを手の掛かる弟だと思っている節があるように思う。 「さて、帰るか」  そう言い、合わせた手を先に解いたトラがツグミの自転車に手を伸ばす。 「あぁ、いい。大丈夫」 「いい。任せろ」  ツグミの自転車を代わりに押して家まで送ってくれるのも、面倒見がいい証拠のようなもの。  それは中学のころから変わらない。  中学校はさっき登ってきた道とは逆に、ここより奥に進んだところにある。合併で村から町に名前が変わり校区が広くなった分、ツグミは自転車で、あるいはほかの生徒はスクールバスならぬ学校委託のスクールタクシーで登校していた学校だ。  当時もトラは、今と同じように迎えに来てくれていた。 「シロー、ただいまぁ。ツグミ帰って来たぞ」  家の敷地に入る前に、トラはシロを見つけたようで声を掛けている。  じゃらりと鎖の擦れる音が聞こえて、シロの姿がツグミにも見えた。しかし当のシロは、真っ白い顔の真ん中の、黒くて丸い鼻をヒクヒクと動かしてそよぐ風の中から、求めるにおいを探しているようだ。 「シロ、ただいま!」  もうだいぶ遠くなっている耳に声が届いたのかは謎だが、ツグミの存在を認めたらしいシロは小さく前足を跳ね上げる仕草の後に、くううんと鳴いた。
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