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軒下の雨風の当たらない定位置にトラが自転車を止めに行ってくれている間に、ツグミはシロに近づいていつものように頭を撫ぜた。
へにょりと倒された両耳の間にツグミの手はきれいに収まり、ポンポンと弾ませるように撫ぜると額の短い毛が手のひらに気持ちいい。
「いい子にしてたか? 今日は暑かっただろ?」
話しかけるとシロは返事をするように、わんと小さく吼えた。フサフサの尻尾が忙しなく揺れて、上機嫌だと物語っている。
「二人とも出掛けてるみたいだな」
自転車から下したツグミの荷物を肩に掛けトラが近づいてくる。
二人ともとは、祖父母のことだ。
この時間だと二人ですぐ近くの畑に出ているのかもしれないし、祖母なら近所の気が合う友達のところで世間話に花を咲かせているのかもしれない。それに祖父はついこの前まで大工として仕事をしていたので、その関係で簡単な仕事を頼まれることもある。
「そうかぁ、今日は天気いいもんな。ん、荷物ありがとう」
受け取った荷物をそのまま縁側に置いて、ツグミは庭の日当たりのいい場所に干された洗濯物へと向かった。きっともう乾いているだろうから、取り込んでおこうと思ったのだ。
「あ、いいよ。トラはシロと遊んでて」
気付き、無言で手伝いを買って出るトラを制して、ツグミは一人洗濯物を取り込み始めた。祖父母と自分の三人分だ、量はそんなに多くはないのだ。
目の隅に、しゃがみ込んでシロと遊んでいるトラが見えた。シロはゴロリと寝転がって、お腹を撫ぜてもらっている。
なんだかんだと、トラとシロも長い。
その関係性もまた、微妙に変化しようとしていた。
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