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「トラ麦茶。ここに置くぞ」
いったん洗濯物を家の中に片付けに入り、二人分の麦茶を手に帰って来たツグミは部屋の中から縁側に出た。
まだシロと遊んでいたトラは、ん、と短く返事をするとシロの水入れを手に立ち上がり、家の裏手にある水道へと向かって行く。
そんなトラを見送って、ツグミは縁側に腰を下ろし、そこにあるサンダルに足を突っ込んだ。
四年前ここに引っ越してきたばかりのころは地面に足は付かなかったのに、今は余裕で足がつく。父が亡くなったのは小学六年の冬。今より三十センチは身長が低かった。
それだけ身長が伸びても全然トラには敵わないというのは、ほんの少し悔しいのがツグミの本音だ。
「ほらシロ、冷たいのを入れてきた」
お座りしてツグミを見上げていたシロは差し出された水入れに鼻を近づけて臭いをかぐとチロチロと水を舐め始める。
それを見届けてトラはツグミの隣に腰を下ろし、それでもまだシロを見ている。
「トラも、ちゃんと水分取れよ」
ついと麦茶の入ったグラスを押してツグミは、自分のグラスに口を付けた。
「ありがとう」
礼を言い、氷が浮かび汗をかいたグラスをトラは手にして一気に中身を飲み干した。ついでのように氷をひとつ口に含み、小気味よい音を立ててかみ砕きながら初夏のわずかに暮れ始めた空を見上げた。
「そういえば、もうすぐ夏祭りだな」
同じように空を見上げてツグミは切り出す。
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