04.雪女

1/3
前へ
/68ページ
次へ

04.雪女

 綿原君のお陰で、僕達は屋内施設である縄文時遊館をくまなく楽しめた。伊桜さんはまるでオーパーツのような縄文ポシェットの前で歓声をあげた。気に入った遺物を熱心に野帳とスマホに記録していく。僕の目を惹いたのは、足が折れた土偶と、鮮やかながらも透明感がある緑のヒスイの装飾品だ。綿原君の説明によると、この良質なヒスイは新潟県糸魚川流域が産地だ。縄文時代にヒスイは北海道から沖縄まで流通し、遠い集落とのネットワークが存在していたそうだ。ネットショップもない時代に、現代人同様、産地ブランドへのこだわりが強かったのかも知れない。ヒスイは加工が難しく、全国の遺跡から未完成品――恐らく製作を途中で諦めたもの――が出土している。どこかにヒスイ加工の専門集団や天才職人がいて、完成品を全国に届けるサービスがあったのかも知れない。文献のない時代、遺物という限られたヒントや条件だけで、あれこれ想像するのは楽しい。どんな仮説も完全否定はできないのだから。  館内の展示を堪能した僕達は、いよいよ三内丸山遺跡へ降り立った。そこは、縄文の豊かな緑が広がる大草原……ではなく、寒風吹きすさぶ白銀の世界だった。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加