01.北へ向かう

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01.北へ向かう

 雪景色の田園地帯を北へ向かう。東北新幹線の下り方面だ。東北人からすると、違和感がある。地図を読むのが苦手な人は、北を上と表現するだろ? 上に向かっているのに、下り方面だなんて。これも蝦夷(えみし)が中央政権に負けたからに違いない。歴史はいつだって勝者のものだ。東北を代表する仙台駅を出て数分。雪化粧をした水田地帯が車窓に広がる。東京駅から数分なら、まだ高層ビルの森の中にいるはずだ。  僕の名前は菊池和真(かずま)。杜の都・仙台の奥州学院大学文学部歴史学科一年生だ。実家を離れ、念願の一人暮らし。受験勉強の心の支えは、大学生になれば合コンしたり、彼女を作ったりという楽しい妄想だったが、現実は厳しい。僕のキャンパスライフはサークルで遊んだり、彼女を作ったりするどころか、生活費のためのアルバイトに精を出し、代返が可能な講義は休みがちという典型的なダメ大学生に成り下がった。地元の出身でもなく、サークルに入ってもいなかった僕には、なかなか友達ができず、完全に乗り遅れた。  処が、ニ月前の大学祭のことだ。僕は、偶然、足を踏み入れた考古学研究部の土偶喫茶(どぐうきっさ)で一目惚れをしてしまった。それが、僕の隣に座っている浅野伊桜(いお)先輩。考古研のアイドルにして僕の憧れの女性だ。一歳年上とはいえ、童顔で小柄な伊桜さんは美しいというより、可愛いという形容詞が合っている。
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