07.アメリカ西海岸のマヨヒガ

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 マヨヒガとは、東北・関東に伝わる伝承で、訪れた者に富をもたらすとされる山中の幻の家だ。マヨイガや迷い家と表記されることもある。古くから口伝で語り継がれ、民俗学者の柳田國男が遠野物語で紹介したことで有名になった。かの作品には二編が収められているが、成功譚と失敗譚が描かれていることから、遭遇すれば誰でも富を授かる訳ではない。  成功譚ではマヨヒガから拝借した椀で計ると米が尽きなかったという。また何も持ち出さなかった無欲な者が、後日川から流れて来た椀を拾うパターンもある。失敗譚は一度迷い込んだが、後日椀を得ようと探すも、マヨヒガに遭遇することはなかったというものだ。  ロックなホテルでは、夜の砂漠のハイウェイを走っているとコリタス――サボテンではなく、マリファナの隠語だろう――の温い香りが立ち上る。一方、マヨヒガでは山の奥深くで道を失うと桐の花の匂いがするという。桐の花でハイになるというのは聞いたことがないが、近くに大麻草やケシが自生していたのかも知れない。  あのホテルが異国のマヨヒガだとしたら、彼らは何を得られたのだろうか?  チェックアウトは自由だが、離れることはできないという意味深長なラストの歌詞。帰ることができないマヨヒガは神隠しという解釈もできる。理想郷から宝を得て帰る話は竜宮城伝説にも似ている。  真実は分からない。だけど、事実は多く残されている。縄文時代でさえ、海を渡っての交流があった。民族のルーツの問題、同時期に世界で似た文明・文化が花開く不思議。ネイティブ・アメリカンの時代にマヨヒガに似た伝承があったのかも知れない。失われた伝承が世界中の遺跡に埋もれている。
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