01.北へ向かう

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 僕は十二月の連休を使い、伊桜さんと新幹線で青森県へ向かっている。お泊りで、だ。温泉好きの伊桜さんが、冬に行きたい秘湯があるというので、青森の遺跡を見学しながら行くことになったのだ。  歴史学科を受験した僕は、東洋古代史を学ぼうとしていた。考古学なんて考えていなかったが、土偶喫茶で縄文コーヒーを飲んだ後、入部届にサインをしていた。他の一年生は春から入部しているので、ゴールデンウイークには遺跡見学会に参加したり、夏休みには発掘のアルバイトを経験したりしている。途中入部の僕だけが、遺跡知識も現場経験もない。そこで、顧問の藤森健一郎先生――通称フジケン――の勧めもあり、ユネスコの世界文化遺産に登録された『北海道・北東北の縄文遺跡群』の見学と温泉巡りをすることになったのだ。因みに教授を先生と呼ぶのは、考古学界の習わしだ。  日本国内で紀元前の遺跡が世界遺産に登録されるのは初めてだ。ただし、普通の現代人にとって、縄文時代なんて歴史の授業で習って以来、気にも留めないものだろう。時折、山間部に切り替わる車窓の田園風景を眺めながら、数千年前の景色はどんなものだったのか、浪漫を馳せる。……ふりをして、伊桜さんの横顔を眺めていた。
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