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「ねぇ、和真君って、出身岩手だっけ?」
「え! あ、はい。この景色と同じで何もない、本当に田舎ですよ。名物といっても……」
不意打ちで目が合ってしまい、視線を外し、慌てて返事をする。見惚れていたのがバレないように繋いだ言葉は饒舌になりがちだ。何とか、今回の旅行で伊桜さんとの距離を縮めたい。あわよくば、付き合いたい。二人の会話は自然と歴史トークになっていった。
「楽しみだよね。三内丸山遺跡。縄文時代は日本の中心地だったかも知れないんだから」
「でも、現代では東北って田舎臭いですよね。負け戦ばっかりですし」
北は『敗北』という言葉を連想する。歴史的に北の民は敗者の歴史を紡いできた。所詮、歴史は勝者が作るもので、英雄譚とは勝者を描く物語だ。
「敗者の歴史なんですかね、東北地方の歴史は」
古くは蝦夷の征討。近代では戊辰戦争。方位的に東北は鬼門と呼ばれている。正反対の西南が羨ましい。
「西とか南だったら良かったなぁ」
「和真君、寒がりだもんね?」
確かに僕は適温の車内でもダウンジャケットを着こんだままだった。
「まぁ、実際寒がりですけど。負けると北に向かうじゃないですか。源義経も新選組も」
「敗北の北ってね、方角の北じゃないんだよ」
「そうなんですか?」
「北っていう漢字はね、二人の人間が背中を向けあっている様子なの。相手に背を向けて逃げるっていう意味なんだよ」
「へぇー」
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