01.北へ向かう

4/4

39人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
「君は被害妄想が強いね。雪国の人に多い気はするけど」 「確かに。……って伊桜さん、山形出身ですよね? 雪国じゃないですか」 「いきなりって、あはは。完全に仙台弁がうつったね。そうよ、山形の雪深い山奥だよ。地元民の会話は何言ってるか分かんないよ、きっと。津軽弁には負けるけど」  山形弁も良いけど、伊桜さんの津軽弁を聞いてみたい。大学に入って分かったことがある。僕は方言女子に弱い。飾らない言葉は、素直な気持ちを表すようでいて、解読不可能な暗号にも感じられる。因みにいきなりとは『凄く』とか『とても』という意味だ。『突然』ではない。田舎に行くほど、いぎなりとか、いぎなしに濁音トッピングで変化していく。 「おーい。何、盛り上がってるんだよ」 「あ、部長。お帰りなさい」  そう。僕は伊桜さんと二人きりで旅行に来られた訳ではない。残念ながらサークルの研究旅行なのだ。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加