02.サル・カ・モライ

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02.サル・カ・モライ

 トイレから戻った橋本部長は僕達と通路を挟んだ席に座り、仙台駅構内で購入した弁当とお茶を折り畳みテーブルにのせた。今回の研究旅行のメンバーは四名だ。三年生の橋本部長と二年生の伊桜さん、一年生のキムテンこと木村典莉(てんり)、そして僕だ。キムテンは青森出身なので、ガイドを兼ねているが、温泉で一泊した後は、そのまま青森市内の実家に帰省する予定だ。今は部長の隣の席でニヤニヤしながらスマホを弄っている。  僕達を乗せた新幹線は、青森県の八戸駅を通過した。さっきまで岩手県だったのに、やはり早いし楽だ。横スクロールのゲームみたいに過ぎ去っていく白い車窓風景をぼんやりと眺めながら、新幹線の通過駅にすらなっていない寂れた故郷を想った。両親とお祖父ちゃんは元気だろうか。岩手県内の大学への進学を望んだ家族に大見得を切って飛び出してきた。歴史学を学ぶことに対して反対していた父親の顔を思い出すと、結局お盆も帰らずじまいだった。きっと正月も帰らないだろう。
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