学園と、出会いと。

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 朝の穏やかな時間は、鳴り響いた起床の鐘と、羞恥に耐えきれなくなったミナリアの逃走という形で幕を閉じた。  だからその後のユイセルの様子をミナリアは知らない。  自身に充てがわれた部屋に慌ただしく駆け込んで、訓練の準備をしたミナリアは、全力疾走で教室へと向かい、いつもより大幅に早く席に着いた。  ルーインが続いてやってきて、イツァージュも席に着く。  効率のよい魔素の練り方や、野戦での基礎知識を教わるだけの教室は、席が決められているわけではない。  チームメンバーで固まって座ることが暗黙の了解となった今ではほとんど固定席だ。  机に突っ伏しているミナリアを見て、二人は首を傾げながらも放置した。  触らぬ神に祟りなし。 「おーうなんだよミナリア? 腹の調子でも悪いのか?」  そこに現れた空気を読まない男。当然ながらガタムである。  ガタムは机の上に腰を下ろしてミナリアの頭の上に手を伸ばした。  ミナリアは視線をやることなく、到達する前に気配だけでぱしり、と払い退ける。   「ご機嫌ななめか?」 「お前の手なら難なく払いのけられるのに……」  ミナリアの言葉に反応したのはルーインとイツァージュだった。  二人で顔を合わせて、ミナリアを見る。 「何それ。ミナリア、誰かに頭撫でられたの〜?」 「不可抗力だ!」  ルーインの言葉に図星を突かれてミナリアは思わず机から体を起こした。  その顔にいつもの怜悧さは微塵もない。  狼狽えるミナリアに、ガタムは呆れたような声を漏らした。 「こいつの頭撫でるとか、どんな強者だよ……」 「だから不可抗力だと言っている……っ」  ミナリアは己に言い聞かせるように語気を強めて、ガタムを睨めあげた。 「でも俺の手は避けるじゃねーか」  ミナリアの強さと気配の鋭敏さを身をもって知るガタムが、不思議そうに首を傾げる。  そんなことはミナリアが一番理解していた。  自分でもユイセルの手を避けられない理由がわからない。だから混乱していると言うのに。 「それって、それって、そういう……こと?」 「イツァージュ……そういうってどういうことでしょうか? どういうことなのでしょうか?」 「落ち着いてミナリア、目が怖いよ」  動揺のあまり席を立って敬語で捲し立てるミナリアに、イツァージュが体を引く。 「いや、えっと……」 「イツァージュに凄むなよ〜、まったく……」  間に入ったルーインが、無理やりミナリアを引き離して椅子に戻す。  ほっと息を吐くイツァージュに対し、ガタムは眉を顰めて理解不能を顔に書いた。 「あ? どういうことだ?」 「脳筋は黙ってなってこと〜」 「てめ……っ」  ルーインの挑発とも取れる言葉にガタムが食ってかかるが、ルーインはそれを手で制した。  ガタムが大人しく引き下がる。  ルーインはミナリアの横に椅子を引いて座ると、どこか愉快そうな表情を浮かべてゆっくりとミナリアに話しかけた。 「ねえ、ミナリア」 「……なんだ」  いくばくか冷静さを取り戻し、ミナリアはルーインの呼びかけに返事を返した。 「それってさ〜かなりその人に気を許してるんじゃない?」 「気を許してる?! 誰が!」 「ミナリアが」 「誰に!」 「その人に〜」  取り戻したばかりの冷静さを失って、ミナリアは声を荒げた。  花壇に咲き誇った花々。  不意に握られた手の温度。  向けられた笑顔。  そして、 《リアも綺麗だよ》 「……っ」  ユイセルのことを思い出してミナリアは、火のように赤くなった。 「そ、そっか……うん、ミナリア、そうなんだね」 「あ〜流石の俺でも理解したわ」 「これはもう確定っしょ〜」  耳までをも赤くしたミナリアに一同は何かを察したように頷き合い、そして呆れたようにため息を吐いた。 「……なん、なんだよ……もう……」  わからないことだらけで落ち着かない。  理解できない感情を抱えて、ミナリアはその夜熱を出した。
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