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「固いことを言うなよ。シャトマに似てきたな」
「シャトマーニ宰相は私の教育係でしたから、似ることもあるでしょう」
ミナリアの教育係を勤めたシャトマーニ=グレイズは、カラザールのただの幼馴染から宰相に実力で上り詰めた秀才である。
シャトマーニは、言葉もまともに知らなかったミナリアに一から真国での常識を叩き込んだ。
ミナリアはカラザールにもシャトマーニにも恩義を感じている。
だからこそその顔に泥を塗らぬよう、ミナリアは誰よりも公明正大に立ち振る舞う。
それがカラザールであっても。
「……意図的に話を逸らしましたね?」
「ばれたか」
「はぁ」
悪びれなく舌を出すカラザールにため息を吐きつつ、ミナリアは本題の質問へ移行した。
「友好のため身を捧げる、とは具体的に何をするのでしょうか?」
「数年前に人族と共同出資して学舎を作っただろう」
「……まだ生まれて間もないうちから友好関係を築かせる目的で立てた共立人真塔学院のことでしょうか?」
共立人真塔学院。
人族と真族の十歳から二十歳の若者に入学資格が与えられた、友好を深めながら魔物討伐を学ぶための学院であった。
神が世界に散らかした魔物は、現在に置いては禍の一つとして人真共通の敵となっている。
友好協定の結ばれた四十年前以降に生まれた人間のうち、蟠りの少ない世代が集まり五年間共同生活を送ることで、友好を深めようとする施策の一つだった。
提案したのは退位間際の先代の人国王で、快く受け入れたのはカラザールである。
設立してから間もなく十年。
「それだ」
「まさか、学院生として通えというんじゃないでしょうね? 私はもう八十五歳ですよ?」
「人族の見た目で言えば十八歳ってとこじゃねーか? 生まれたばっかりだろ」
「それはそうかもしれませんが、学院で何をしろと?」
見た目のことを言えばカラザールとて五十歩百歩である。
真族は長い生のうち、青年期が最も長い。
千年生きれば大往生とされる真族では、カラザールとて若輩である。
「……友好協定を結んで何年になる?」
「四十年です」
真剣味を帯びたカラザールがどこか遠い目をする。
ミナリアは、居住まいを正して、月日を数えた。
「その友好協定にはお前も一枚噛んでるだろ」
「……噛んではいませんが、人国を動かしたのに私の存在があったことは確かですね」
脳裏に先代の人国王の顔を思い浮かべる。幼くも強い心を持った少年は、十かそこらの年齢で人族と真族の友好を志し、そしてそのまま成長した。
彼が人国王として即位した四十年前。一番初めに行った政策が、人真友好協定の締結である。
「何を言う。ムザルはお前を兄と慕っているではないか」
「ムザル先代人国王陛下ですよ、閣下」
ムザル=ハイネル。先代の人国王である。人国で初めて邂逅してから六十年。付き合いだけならカラザールよりも長い。
ミナリアが人国で生活していた時間はそれほど長くはないが、その三分の二はムザルと一緒だった。
今でも手紙のやりとりはしているが、最後に顔を合わせたのはそれこそ十年前。共立人真塔学院の設立に伴う式典だった。皺の増えた顔に幼い日の面影を見て、ミナリアはその時初めて彼の前で泣いた。
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