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学園と、出会いと。
えてして。
春学期の新入生として、ミナリアは学院に潜入した。
入学初日の説明を軽く聞き流す。ある程度の情報は予習済みだった。
明日から本格的に始まる授業という名の訓練を前に、今日は午前で解散である。
ミナリアは宰相のシャトマーニに言われた通りの道を歩き、学園内の演習場の片隅にたどり着いた。
話しかけられたのは突然。
「……ジャラジャラ」
振り返った先に、見覚えのある相貌。
ミナリアは身長が低い方ではないが、彼は想像していた以上に背が高かった。
ミナリアは念のため、手の中の写真と人物を見比べる。
「事情があってな。ユイセル=ヒュケンで間違いないか?」
「ん……あんたがミナリア=リィーン?」
ミナリアはユイセルから出た自らの偽名に是を返した。
お互いの素性は明かされていない。
知らされているのは、ユイセルもミナリアと同様に友好のために国が入学させた人間である、ということだけだ。
「へぇ……」
ユイセルは検分するようにミナリアの頭の上から下までをゆっくりと視線を巡らせた。殊更眼鏡を見つめられて緊張で体が逃げる。
漸く眼鏡から外された視線を追うと、彼の目はミナリアの服の下を確認しているようだった。
服の下。
そこには、先程ユイセルがジャラジャラと表現した銀の鎖が巻きついている。その鎖は襟と袖から覗いていた。
これはシャトマーニがミナリアに与えた、魔素を制御するための魔道具だった。
アクセサリーと呼ぶには仰々しいそれは、ハーネスのように鎧状の背中を起点とし、這うように手足へと鎖を伸ばしている。チョーカーのように首に絡みついた部分と、ブレスレットのように見える部分だけが唯一シャツの外へと露出していた。
学院へは魔素増幅の魔道具だと説明したそれは、ミナリアを人族として潜入させるための隠れ蓑だった。実際にはミナリアの内なる魔素を抑えるための処置である。
「……右脚、ギシギシ言ってる。鎧?」
「……耳がいいのだな」
ユイセルの指摘にミナリアは感心して頷きを返した。
「義足だ。昔切った」
「へぇ……」
ユイセルはそれ以上は突っ込んで来なかった。
ただ音の正体が知りたかっただけのようだ。
髪と揃いの緑の目にどこか居心地の悪さを感じてミナリアは軽く身じろいだ。
言葉が少ない故に、目が雄弁に語る。無表情の割には人懐こそうな男だとミナリアは思った。
「俺は秋学期の入学でここに来た。国の指示ではあるけど、好きにさせてもらってる……から、ミナリアも、好きに過ごすといい……」
唐突に無表情を崩したユイセルは微かに微笑むと、ミナリアの頭に手を置いた。
余りにも自然すぎて体が反応しきれない。
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