学園と、出会いと。

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「なっ、なっ、何、何を」  状況を理解したミナリアは耳まで赤く染めて、言葉にならない声を発した。  冷たく見える銀髪と、人の視線を遠ざけるような眼鏡、そして地位。それらが相まって気軽に他人に触れられる機会のないミナリアは、大いに戸惑った。  騎士団の脳筋連中ですらミナリアには気軽に触れない。 「……なんとなく」 「なんとなくで人の頭を撫でるな!」  数十年も歳下の男に頭を撫でられて、ミナリアは羞恥で憤死しそうだった。 「悪かった」  ユイセルがミナリアの頭から手を退ける。ぶっきらぼうの物言いの割に言葉に棘はない。  再び差し出された手には、黄色の花弁の花が握られていた。  大気の魔素の気配がする。 「……お前が作ったのか」 「ユイセルと呼べばいい。……俺はリアと呼ぶ」  ミナリアの問いに頷きで返したユイセルは、今度は赤い花を咲かせた。 「……綺麗だな。ユイセルは花が好きなのか」 「好きだ。俺は、将来庭師になりたい」  端的な言葉の割に熱の入った言葉だった。  そんな男がなぜこの学院にいるのか。  ミナリアの疑問が顔に出ていたのか、ユイセルは手招きして演習場の中に足を踏み入れた。  土の押し固められた地面が、気持ち程度に四角く区切られている。  ミナリアとユイセルのちょうど対面にあたる壁沿いには、魔素で固められた的が並んでいた。  どうやら遠当て用のスペースらしい。  ユイセルは大気から魔素を練ると、一番左の的に向かって風の刃を放った。  刃は的の端に当たって宙に霧散する。  ユイセルは肩をすくめた。 「俺はあんまり制御が上手くない。庭作りするには、制御が大事」 「なるほどな。戦闘技術云々よりも、純粋な制御か」  ミナリアはお眩い気持ちでユイセルを見つめた。  自分のなりたいものに向かって努力する姿が、単純に輝いて見える。  かつてミナリアも努力をした時期があった。  カラザールへの恩を返そうと必死で語学を学び、カラザールのためにあろうと必死に魔物を屠る技を磨いた。 「いつか、我が家の庭を美しく飾ってくれ」  庭と言っても、王城であるが。  何も知らないユイセルは、大きく頷いた。  ひとまず、協力体制は築けそうだ。  ミナリアは安堵して小さく微笑んだ。 「だから何故頭を撫でる!」 「……なんとなく」
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