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次の日から始まった戦闘訓練は、同じクラスの四名が一つのチームとなって行われる。
学院から指定されるそのチームは、真族と人族が二名ずつで構成され、何もなければ一年間変更されることはない。
ミナリアは、人族の弓使いと、真族の剣士、瑜術師とチームとなった。
現在地は拓けた演習場の隅。
簡単な挨拶を済ませ、各々の戦い方を共有する。
ミナリアは、当然のように魔素を練り込んで片手剣を作り上げた。
「わお! 君は武器も魔素で作るの?」
使い慣れた武器ではないため、手に馴染まない。
握りを確かめていると、ルーインという名の弓使いが感嘆の声をあげて話しかけて来た。
陽気な青年だ。歳の頃はこの中で一番若い。
「持ち歩くのも面倒なのでな」
大型の両手剣を背に携えた剣士は、ミナリアの言葉をはっと鼻で笑った。感情に呼応する様に犬に似た尻尾がばさりと揺れる。
「魔素を増幅しないと戦えないようなやつが大層な口だな!」
「そ、そんな言い方は良くないよ……っガタムくん!」
剣士ガタムを嗜める瑜術師はイツァージュ。
首の横に鰓のような溝がある。肌の色はグレーかかった紫だ。
どちらも二十歳手前の若者だった。
ミナリアはふむ、と顎に手を当てて思案する。
入学早々に真族と人族の確執に遭遇してしまった。
カラザールの命令を遂行するには、まずこのチーム内から変革していく必要がありそうだ。
「まあまあ〜楽しくやろうよ。俺たちの敵はお互いじゃなくて魔物っしょ?」
「けっ! 戦闘中に背中まで気にしないといけないなんてとんだ災難だぜ」
「訓練になっていいんじゃな〜い? お望みなら正面からでも射ってあげるよ〜?」
「全部払い落としてやる」
ルーインの方が場を弁えているようだ。冗談を交えて、ガタムを言葉で退ける。
ミナリアは睨み合う双方のやり取りを見ながらおろおろとする瑜術師に声をかけた。
「ガタムは昔から人族が嫌いなのか?」
「えっあっ、うん。嫌いっていうか……良い人族に出会わなかったんだと思うよ……」
なるほど、気持ちはわかる。
ミナリアは深く頷いた。
ミナリアとて、ムザルに出会わなければ人族と対話しようなどと思わなかったかもしれない。
「可哀想なやつなのだな……」
「ああん?! 誰が! 可哀想だってんだよ! この眼鏡!」
ガラムの意識が自分に向いて、ミナリアは思わず距離を取った。
しまった、と思ったのは一瞬。
一足で二メートルは離れたミナリアを、三人は目を開いて感心したように見つめていた。
「お前、人族の割には動けるんだな」
「人族とか関係なくない? 超戦力じゃん!」
「すごいよ……っ! すっごくバランスの良いチームかも……っ」
意図せずに評価を得たミナリアは、褒められたことに軽く礼を言って、その場を凌いだ。
その心情は焦りと戸惑い。
騎士団でも他人との関わりを持たなかったミナリアは、他人からの純粋な好意に疎かった。
むず痒いような恥ずかしいような感情を表に出すまいとして、態度が固くなってしまったかもしれない。
《好きに過ごすといい》
ユイセルに言われた言葉を不意に思い出す。
自分の好きなように、気の赴くままに、過ごして良いのだろうか。
(それが、人族と真族の友好のためなら)
カラザールとムザルのためであるなら。
「俺はミナリア=リィーン。……これから、よろしくな」
彼らと友人になれる未来を祈って、ミナリアはそっと微笑んだ。
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