プロローグ

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創神の神話 改訂版 《ああ、退屈だな》  神はこの世界の土台を、真素を練り上げて作り上げたのだという。  つるりとした平な面に真素を広げただけの何もない空間。神は最初に、塔を立てた。  広い世界の真ん中に立つ塔。神はその天辺に、玉座を作った。  そして神は気付く。玉座はあっても、座るものがいない。 《玉座に座る生き物を作ろう》  神はその日、一匹の獣を作った。  玉座に座った獣が吠える。  その遠吠えは世界を揺らし、その歪みが太陽を生んだ。  獣は毎日塔を一周する。  一周すると、塔の周りに草木が生えた。  二周すると、その草木に花が咲いた。  三周すると、木の芽が芽吹き。  四周すると、木の葉が茂る。  三六五周したとき、何もない大地には、豊かな緑が広がっていた。  獣が玉座へと戻る。  役目を終えた一匹の獣は、玉座の上で眠りについた。その時、太陽が月とに分たれ、夜が生まれたのだという。  神は次に二羽の鳥を作った。  鳥が囀ると、声を乗せる風が吹き出した。  風は世界を駆け巡り、温かな空気が巡回する。鳥は季節を作り、雲を作った。  雲は雨を呼び、大きな水溜りとなって大地を隔てる。  神はその時出来た水溜りを海と名付け、海に棲む魚を三匹放った。  魚が生き生きと泳ぐ姿に満足した神は、その世界を放っておくことにした。 《この世界を観察するのは暫く休憩にしよう》  幾度の季節が過ぎ、神が再び世界を見たとき。  世界は鳥と魚で溢れていた。  番い、群れを作るそれらを観察して、神は気付く。  最初に作った獣だけが、一匹だった。  神は考えた。獣に番を与えよう。  しかし神の手元には、獣を作る材料が残っていなかった。鳥と魚を作るのに使ってしまったからである。  神は試行錯誤し、その過程で失敗した数多の真素の粒を、紛い物として世界にばら撒いて捨てた。  紛い物は、ぎらりと赤色を纏って、獣に似た形となって世界に隠れた。  そしてついに、神は真素から2種類の人間を二組作ることに成功する。  神は、大気の真素を取り込んで生きる人間を人族と呼び、自ら真素を生み出し糧とする人間を真族と名付け、獣の住む塔に住まわせた。 《さあ、獣と番うのは誰?》  獣の番として用意した人間のうち、一人の真族と一人の人族がすぐに番となり塔を出た。  残ったのは二人。  獣はどちらも番として選ぶことが出来なかった。孤独を知っていた獣は、片方を選ぶことで片方が孤独になることに耐えられなかったのだ。  その代わりに、獣は真族と人族と交互に交わり、沢山の真族の子どもと、沢山の人族の子どもをもうけた。  目論見が外れたことに、神は不機嫌になった。  神は提案した。 《真素の使い方を教えよう。戦って勝った方が獣の番となるといい!》  人族と真族は争いを始めた。  たった一匹の獣の番となるために。  たった一つの玉座に座るために。  その過程で人族はより強い繁殖力を、真族はより長い寿命を手に入れた。  真素による争いは、年を経るごとに凄惨さを増していく。  獣は悲しんだ。  こんなことになる前に、自ら孤独を選んで消えるべきであったと。  そして。  一匹の獣は、この世界から姿を消した。  神は悔やんだ。  そして、その後悔が、真素を魔素とし、紛い物を魔物へと変質させた。  獣のいなくなった世界で、人族と真族の争いは続く。  そして、創神歴一六八二三年。  長く続いた争いは、終焉を迎えることとなる。
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