すべてが消える日

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 お酒に弱い伊月は差し出したホットワインを「初めて飲んだけどおいしいね」と言ってくれた。  甘党の伊月のためにやや多めにハチミツを入れて、オレンジやレモンをふんだんに使ってごくごく飲めるように口当たりよく、香りづけのシナモンやクローブはやや控えめに細心の注意を払って作ったのだ。 「ワインは少ししか入っていないから酔っ払うことはない」と笑って「温まったから少し眠くなったんじゃない」と毛糸で編んだ帽子をかぶった伊月の頭を軽く叩いた。  私は、罪に問われるのかな。  眠ってしまったあなたを、ひとり山に置いてきた。  車に乗りこんでエンジンをかけようとしたけれど、冷たくなりすぎた指はうまく動かない。その時、はじめて自分の手が震えていることに気がついた。
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