すべてが消える日

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  「別れよう、もうおれはきみのことを思う余裕なんてこれっぽっちもないのだから」  私の顔を見ずに、そう告げた伊月のすっとした鼻梁の線とあごから耳にかけてのラインがきれいな横顔を今でも思い出すことができる。  眉ひとつ動かさず息を吐くように一気に言ってそのまま唇を結んだ伊月の髪は明るい栗色で窓から差し込む光にきらきらとまぶしく、わたしは目を細めたままその姿を見ていた。 「そんなふうに泣く姿を見たくないんだよ」  力なくうつむいた伊月がため息をつくように呟いた。  驚いて自分の頬に手をやるといつの間にか濡れていた。 「ごめんなさい。もう泣かないから」 「泣かせているのはおれだ」 「伊月は悪くない。あなたは何も悪くない」 「ほら、そうやってまた泣く」 「目にゴミが入っただけだもん」  そう言って伊月の頭を胸に抱いた。  さらさらの髪。きっともうすぐ薬の副作用でこの髪も抜けてしまう。  そう思うと髪の毛すら愛おしかった。  泣きたいのは伊月の方だ。  そんなことはわかりすぎるほどわかっていた。 「山へ行きたい」  乾いた唇で何度も言うけれど、歩くのもやっとの彼に登れる山などあるはずもない。
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