混乱のティーパーティータイム

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こっちから掛け直してやろうかと思ったが、非通知設定で掛け直す事も出来なくて、ぐっとスマホを握った。 「まあ、もえもえが元気そうで良かったじゃないですか。それにもえもえはちゃんと、あの女。狭山みどりを認識して会話をしていました。伯爵との中も良さそうで。今のところ心身ともに良好な関係を築いているようでしたね」 ふっと、紫煙を吐きながらゆるりと語るリン。 確かに、萌希はどうやら元気そうだったが、こう、なんか。 僕の予想の斜め上の状況だった。 しかもバスタオル一枚でうろついているかとか。 非常にモヤモヤした。 あと、胸がどーのこーのとか。 しかし、今ここでリンにそのモヤモヤをぶつけても仕方ない。 僕は肩の力を抜きながら、ソファに倒れ込むように深く身体を預けながら、本心とは別の疑問をリンに問いかけた。 「……アールグレイ伯爵はあんなふざけた野郎なのか?」 「ええ、のらりくらり躱して、笑顔で人を貶しれて。勝ち負けなどは曖昧で。どんな状況でも最後に──笑っているのは伯爵です。まともにやり合おうとか思わない方がいい。間違いなく化け物ですよ」 リンが短くなった煙草をそのままガラスの灰皿にグシャリと押し付けた。 今は昔より丸くなった思いますがと、リンは小さく付け足した。 リンはあまり昔の事を喋りたがらない。 僕もそれを無理に聞き出そうとは思わない。 しかし、今。 昔にあった事を聞きたくなった。 だが、それを先にリンが察したらしくエメラルド色の瞳をいたずらっぽく細め、人差し指を唇の前に持ってきて。 「今は静かに、ただ連絡を待ちましょう」と、笑った。 そんな風にされたら是も否もない。 しばし、沈黙が続いて。 再びスマホから着信の音がなった。 通知画面は非通知設定。 伯爵だろうと思った。 リンが頷き、僕にスマホに出るように目配せしてきた。僕も小さく頷いて再び通話ボタンを押した。 『もしもし。おまたせしてごめん。ちゃんと2人を静かにさせようとしたら、色々と時間が掛かってね。この電話に出てるのはカメリア君かな? 初めまして。アールグレイって言い』 僕は伯爵の言葉を最後まで聞かずに、言葉を遮って、自分の言葉を重ねた。 「萌希を返せ。その交換条件は何だ。言え」 ──なんで萌希を攫った。 ──僕の店にちょっかいを出したのはお前か。 この街にゾンビもどきを出現させたのはお前か。 あの、クソ女はお前の一体なんだ。 色々と聞きたい事があったが、それらは最優先事項ではなかった。 『ふふっ。もう少しお喋りしたいと思ったのにつれないなぁ。そんなにイライラしなくても。あ、ひょっとしてもえもえに惚れてるのかな?』 「条件を言え。それ意外は喋る気はない」 苦笑ともため息とも付かない声がした。 『オッケー。そうだね。分かった。条件は直接言う。だから今から1時に、港区北町のファミレスに来てくれ。こちらの使いを既に寄越している。その使いが案内する場所まで来てくれ』 「まどろっこしい。直接場所を言え」 『短気は損気だよ。前にも言われなかった? それに直接場所を言ったらリン君が必ず罠を仕掛けて来るでしょ? 俺、散々それに苦しめられた記憶があるんだよ。だから、無理。あと、使いの者をいじめないでね。いじめたら──同じ事をもえもえにしちゃうからね』 「……わかった」 『君とお話しするの楽しみだよ。じゃ、また後で』 僕はちっとも楽しみなんかじゃない。 そう、よっぽど言ってやろうかと僕の迷いの間に電話が切れた。 そのまま萌希のスマホは僕の内ポケットに入れて。 「リン、行くぞ」 「えぇ。では真夜中のドライブと洒落込みましょうか」 そんな短い会話をしてようやく、ホテルを後にしたのだった。
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