303人が本棚に入れています
本棚に追加
「貴女、その服は……」
え?この子も私の服装がおかしいって思うの?
ますます訳がわからない。普通の制服だよこれ?
「あ、お嬢様。どうやらこの辺りの者でも旅人でもないようなのですが。
こんな森の中に若い娘が1人というのはあまりにも……」
最初に私に声をかけて来た人が馬から降りて女の子に声をかける。
ちらっとこちらを見る目は、困惑と不審が混ざりあっている。
怪しいけどほっとくのもどうなんだって感じだろうか。
「なるほど。わかりましたわ。
ちょっと降りますので、開けてくださる?」
「え!?お嬢様危険です!」
「大丈夫ですから。ね?」
そう声をかけつつにっこり微笑む女の子。
でもなんだろう。
有無を言わさぬ雰囲気を感じる。
あ、目も笑ってないような気がする。
「か、かしこまりました」
雰囲気に押されたのか、渋々といった感じで馬車が開けられ、女の子が降りてくる。
その服装を見て、私はまたまた固まる。
もう何度目だこれ。
女の子が着ているのはその髪色と同じ真っ赤なドレス。
華美な装飾はされていないけど、彼女の雰囲気がそう見せるのか、とても高級そうに見える。
馬車から降りた女の子は、固まったままの私の目の前まで来ると、じっと私を見て口元に手を添えて何かを考えるように黙っている。
「あの?」
美少女に見詰められ、ようやく硬直が溶けた私が声をかけるとハッとしたように顔を上げる。
「あ、ごめんなさいね。貴女、行く宛てはあるの?」
「行く宛てですか。
えっと、とりあえず家に帰るか連絡するかしたいんですけど、スマホもなくなってて」
「そうでしたの。それはお困りですわね」
そう言って頷くと、女の子は周りの人達に声をかける。
「彼女を屋敷まで連れて帰ります」
「お嬢様!?」
驚く周りの人達に対し、女の子は平然としている。
「こんなところに若い女性を1人で放っておくなど、出来るはずもないでしょう?
大丈夫です。何かあったら責任は私が取りますから」
「ですが!」
「ね?」
「…………お嬢様がそこまで仰るのでしたら」
有無を言わさぬ女の子の迫力に、周りの人達は納得し切れていない様子ながらも頷く。
ん?ていうか私の意思はどうなるんだろう?
「さ、貴女もいらっしゃい。
ずっとこのままここにいたい訳ではないのでしょう?」
そう言うと、私の手を掴んでさっさと歩き出してしまう。
「え!?あのっ!」
「良いから良いから」
満面の笑みでそう言いながらぐいぐい手を引き、そのまま馬車に乗せられてしまう。
見かけによらず随分と力が……っておぉ、すごい。
なんか内装めっちゃ豪華だよこれ。
それに馬車とか乗るの人生初だ。そもそも本物を見たのも初めてだし。
あ、座席は結構ふかふかなんだな。
物珍しさに車内でキョロキョロしている私に、女の子がクスッと笑みを零す。
「さて、まだ自己紹介もしていませんでしたね。
私はセリーナ・ラズウェイ。
ラズウェイ公爵家の娘ですわ。どうぞセリーナとお呼びになって?」
「あ、私は結城美里(みり)です。
って、ん?公爵?」
公爵ってあれだよね?貴族の身分の偉いやつ。
セリーナさんの自己紹介を聞いて、頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
混乱したり固まったり、今日は忙しい。
「ええ。公爵家ですわ。
まぁ、今は私の身分云々の話は置いておいて。
ミリは日本人ですね?」
「あ、はい。そうです。て言うか、ここ日本ですよね?
気が付いたらこの森の中にいて、何が何だかわからなくて……」
馬車の窓から左右に広がる森を見ながら答える。
「ここは……。そうね、どうお答えするべきかしら」
同じように森を見ていたセリーナさんは、どう答えるのか迷っているように見えた。
「ひとまず私の屋敷に参りましょう。
そこできちんとお話しますわ」
「いや、でも……。いえ、わかりました」
それきり何かを考え込むように黙ってしまったセリーナさんに、私も頷くしかなかった。
セリーナさんの屋敷に着いたら、そこで家に連絡をさせてもらって、それから。
そうやって考えてはみるものの、本当にそれが出来るのか。
私の心にはどんどん不安が広がっていくのだった。
最初のコメントを投稿しよう!