間章 王太子

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私のそうした態度も原因だったのだろう。 婚約して数年が経つ頃には、貴族間でのセリーナの評判はどん底まで落ちていた。 稀代の悪女と呼ばれるようになったのもこのころだったろうか。 王城や貴族家での茶会に、婚約者ということでセリーナと同席することはあったが、私が彼女に話し掛けることは無かったし、私がそうするものだから、彼女に話し掛ける者は誰一人としていなかった。 その結果、彼女はいつも会場の隅に1人で立ち尽くしていた。 それを見た私は、周囲の大人を欺いて機嫌取りをしている事への当然の報いだと信じて疑わかなったのだ。 その時の彼女がどんな顔をしていたかも見ようとせずに。 やがて私もセリーナも貴族学校に入学する年齢になった。 正直、今更ここで学ぶようなことはなかったが、将来王位を継いだ時のために人脈は必要だった。 3年という在籍期間は長いと感じたが、これも将来のためと割り切って入学式に参加した時、私は彼女と出会ってしまった。 亜麻色の髪に、私と同じ水色の瞳を持つ美しい少女。 彼女の名前はサーシャ・フェルチェ伯爵令嬢。 その家名を聞いて、すぐにピンと来た。 貴族学校に入学する少し前、フェルチェ伯爵家から、婚外子を引き取ると届け出であったのだ。 (貴族名鑑に載せる必要がある為、婚外子だろうと養子だろうと家門に受け入れる際には届け出が義務付けられている。) 伯爵には他に子供はいなかったはずだから、彼女がその婚外子であることはすぐにわかった。 それならば、きっとここに知り合いなんて誰もいないだろう。 大抵の貴族家の子供は、一定の年齢になれば茶会に参加するようになり、そこで友人を作るからだ。 当然、その交友関係は利害関係を含むものであることが多いから、それほど力がある訳では無いフェルチェ伯爵家の、しかも婚外子を今更受け入れようとする貴族がいるとも思えなかった。
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