間章 王太子

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入学式からしばらく過ぎた頃、買いたいものがあるというサーシャについて行くと、まだ伯爵家に引き取られる前に出来たという友人と出会った。 どこかの貴族家に仕えているらしいその友人の事は、サーシャから聞かされたことがあったが、とても嬉しそうに再会を喜んでいる姿に私も嬉しくなった。 まさか私までいるとは思っていなかったらしく、侍女服に身を包んだその少女は私を見てとても驚いていたが、その様子がどこか微笑ましく思えて好ましかった。 この国ではあまり見掛けない、異国風の容貌をしている少女に、どこの家門に仕えているのか尋ねた。 私やレイナード以外に知り合いもいなくて寂しいであろうサーシャの大切な友人を、たとえ意図していなくてもこの学校へと連れて来てくれたことは、それだけで謝意を述べる価値があると思ったからだ。 しかし、ミリという名のその少女から告げられた名前を聞いて愕然とした。 まさか、あのセリーナに仕えているとは……。 その時に私が最初に思ったのは、異国風の容貌をしたこの侍女が、無理やりセリーナによって何処かから連れ去られて来たのではないかということ。 当然そんなことは許されるはずもないが、セリーナなら。あの女ならやりかねないと思った。 私のそんな心配は知らずに、ミリと名乗る少女は誇らしげにセリーナのことを語る。 そんなはずがない、セリーナと言えば極悪で……。 そう思うと同時に、今更のように気が付く。 私は一体、何を根拠にセリーナが悪女だと決め付けていたのかと。
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