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そう思って申し込んだ豊穣祭の舞踏会でのエスコート。
断られても仕方ないと思っていたが、セリーナは応じてくれた。
この機会に謝ろうと思っていたにも関わらず、結局切り出せなかった情けない自分を殴ってやりたい。
舞踏会の翌日、そうして執務室で悶々としていた所に飛び込んで来たサーシャ誘拐の知らせ。
あのミリという侍女と一緒に、街へ屋台見物に行ったところを何者かに連れ去られてしまったという。
私はサーシャを友人だと思っていたし、あの侍女はセリーナのことに関して考えを改めるきっかけをくれた恩人だと思っている。
そんな2人の危機に、慌てて執務室を飛び出し、王室騎士団へ指示を出すと同時に私自身も夜通し2人の姿を探した。
幸いなことに、彼女たちはレイナードが無事に助け出してくれたが、危うく奴隷商人に売られるところだったという。
そんな輩が我が国で暗躍しようとしていたことに、王族として申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、一先ず事件は解決した。
そう思っていた矢先、とんでもない噂が貴族の間に広まった。
よりによって、あの事件の黒幕がセリーナだというものだ。
しかも、かの侍女を実行犯にしたとか。
腸が煮えくり返る程腹が立ったが、私に怒る資格なんてないのではないかと思った。
そもそも、私がセリーナに婚約者としてきちんと接して来なかったのが原因だからだ。
レイナードの報告によると、セリーナはこの噂を静観しているという。
ラズウェイ公爵家の力があれば、正直力づくでそんな噂なんて消せたはず。
だが、当然そうすれば別のところに歪みが生じる。
それがわかっているからこそ、彼女は何も言わないのだろうとわかった。
やはりセリーナは賢い女性だ。
改めてそう思うのと同時に、申し訳なくなる。
だからこそ、この噂は王家で消すべきだと判断した。
父の了承も得て、王家として正式にこの噂を否定する声明を出したことにより、噂はすぐに消えた。
だが、私はそれで終わりにするつもりはなかった。
荒唐無稽な噂にも関わらず、あまりに浸透する速度が速すぎる。
これは裏があるに違いない。
そう判断した私は、レイナードと騎士団の諜報部隊を使って噂の出処を調べさせた。
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