間章 王太子

10/10
前へ
/474ページ
次へ
どうしても緊張してしまうのを何とか抑えつけてセリーナに護衛の件について尋ねると、彼女は何故そんな当然なことを聞くんだと言わんばかりに、サーシャは大切な友人だからだと答えた。 確かにそれは知っていた。 だが、セリーナの立場なら、私と親しいと噂されているサーシャに対して複雑な気持ちがあってもいいはず。 そう言う私に対し、セリーナは酷薄な笑みを浮かべて告げる。 全てはお前のせいだと。 その言葉に、私は返す言葉がなかった。 ただでさえセリーナとの不仲が知れ渡っている中で、私が他の令嬢と親しげにしていれば周りはどう思うか。 そしてその結果として何が起こるか。 そんな分かりきったことすらも考えが及んでいなかった自分が情けなくて仕方なかった。 自分自身の不甲斐なさに、折れそうになる心を奮い立たせてセリーナへの謝罪の言葉をようやく口にする事が出来たが、彼女の反応は私が思っていたものとは全く違った。 今更何を言い出すのかと怒るとばかり思っていたセリーナは、顔を真っ青にすると体調が悪いと言って走り去ってしまった。 そこまで私と話すのが嫌だったのだろうか。 いや、それも当然のことだろう。 私はそれだけのことをしてしまったのだから。 今更ながら、改めて自分がとても得がたい人からの信頼を失ってしまったことを自覚する。 そもそも最初からそんなものは存在していなかったのかもしれないが。 それでも、私はこれからも彼女に償い続けなければならない。 改めてセリーナのことを調べたり考えたりしているうちに胸の中に微かに芽生えていた彼女への感情には蓋をして、私はいつまでも誰もいなくなった庭園に立ち尽くしていた。
/474ページ

最初のコメントを投稿しよう!

299人が本棚に入れています
本棚に追加