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ひとしきり笑ったラッセル様が、不意に表情を引き締める。
「しかし良かったよ。セリーナ嬢が殿下と改めて話してみようという気持ちでいてくれて。」
先程のラッセル様の言葉だと、どうやら王太子もあの日のお茶会のことで色々悩んでいるっぽい。
やはり、側近としてずっと近くにいる立場のラッセル様だと、王太子の様子も心配なのかな。
「そうね。やっぱりずっとこのままっていう訳にはいかないでしょうし。
その後どうなるにせよ、まずはきちんと話し合わないと。」
セリーナさんの言う「その後どうなるにせよ」というのは、婚約関係を維持するのか解消するのかっていうことだろうか。
たぶんそうなんだろうなとは思う。
ラッセル様はそのことに気付いているのかいないのかはわからないけど、穏やかな表情で話を聞いてくれている。
「それでね、その……。
レイナード様に頼みたい事があるのよ。」
「俺に?」
「ええ。」
何やら言いにくそうにもじもじしているセリーナさん。
神官様への話以外にも何かあるのかな?
「殿下にね、手紙を書こうと思うの。
本来なら、きちんと顔を合わせた上で、また改めて話をしましょうってお伝えするべきだとは思うのよ。
それはわかってる。
でもね、今はまだどんな顔をして殿下と話せばいいのかわからないのよ。」
「それで手紙……か。」
ラッセル様の言葉にこくりと頷くセリーナさん。
恥ずかしいのか、微かに顔が赤くなっている。
「わかった。俺に預けてくれれば、間違いなく殿下に手渡そう。」
「助かるわ。ありがとう。」
笑顔で頷いてくれたラッセル様に、セリーナさんも安心したように微笑む。
いつの間にか太陽も傾き、秋の夕焼けが差し込む東屋に、暖かな空気が流れていた。
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