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ふと思い立って若者に名前を訊いてみた。
すると、彼はにこやかに笑って『ダリです』と教えてくれた。
中米のスラム街で生まれたダリは、13歳の時に内戦に巻き込まれて家族を失い、生き残るために国外への脱出を余儀なくされたのだという。
ぼくの身体にパッチ式の電極を貼り付けながら、彼は懐かしむように、
「反政府勢力の奴らに村を襲撃され、家族を殺されたぼくはメキシコを目指しました。お金なんて持ってませんよ、当たり前じゃないですか‥‥‥ですが、途中で移民局の検問に引っ掛かってしまったんです」
ダリの顔から、それまでの明るさが消える。
それはくるべくしてきた瞬間だった。
毎年、30万人を越える居場所を失った人々が暴力の嵐から逃れるべく決死の逃避行に繰り出すが、殆どは旅の途中で襲撃に遭い死亡したり、国境近くに展開する警備隊に拘束されるなどして、失敗に終わる。
あともう少しというところで未来を断たれた者達の声、絶望は泡となりかき消され、誰の耳にも心にも届かない。
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