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ぼくは元軍人で、銃で、政策の道具だから、命なんてものにいちいち執着するほど打たれ弱くはないし、死に対する恐怖もない。
交通事故で両足の機能を喪失するまでの間、約5年。
ぼくは政府に訓練された優秀な殺し屋として、命令に忠実な戦闘マシーンとして、この地上で行われたありとあらゆる種類の軍事作戦に参加し、有象無象の「敵」を葬ってきた。
身に降りかかってきた災難や試練の数々。
それらを暴力と脅迫で乗り越えてきた。
中東、インド、南アフリカ。”さすらい”の旅。
淡々と「業務」をこなす日々。
血と汗と硝煙の匂いの中、背後を警戒し、息をひそめ、敵が現れるのを待ち、最後に頭を撃ち抜く。
10人を越えたあたりから、数えるのをやめた。無意味だと悟ったから。
往々にして消失する事柄や命の数は計り知れず、一つ一つを掘り下げたからと言って、状況が改善されるわけでもない。
戦場という生々しい命のやり取りが繰り広げられる非日常において、一瞬のためらいや油断は命取りになる。
奪ってきた命について考えたら、何も出来なくなる。
そうなったら、後は死ぬだけだ。
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