主人公はボクじゃない!

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友人に運命の赤い糸を信じるかと 神妙な顔で聞かれたのが昨日のこと。 その時はてっきり少女マンガでも 読んでそれに影響されてしまったのか 好きな人でも出来て乙女思考になって しまったものだと思っていたけれど。 今ボクの小指にあるのは紛れも無い 赤い糸なわけで、しかも不思議なことに 他の人にも結ばれているそれが見えて、 ボクは現在昨日まで赤い糸が見えていた という友人斗真くんにファミレスで 相談中というわけになるのだが。 …ボクは、どこぞの異能力漫画の 主人公になった記憶はないんだけど。 「…そっかあ、 伊織くん赤い糸見えるんだね」 あの時と同じように神妙な面持ちで 言った斗真くんにボクは半ば泣きそう になりながら返事をする。 「そーなんだよー、 斗真くんはもう見えないんでしょ?」 「うん、何で突然見えなくなっちゃったのかは分かんないけど…」 不思議そうにこてん、と首を傾げる 斗真くんの仕草は女子顔負けの可愛さで 子犬のようなその瞳に庇護欲が沸いた。 うん、無自覚にあざといって怖い。 そんなことを思いながら同時平行して ボクらの不思議な能力について考える。 何故突然見えなくなってしまったのか、 そもそも何故ボクらが赤い糸を視認 できるようになってしまったのか、 そう考えると、気になる所がある。 「う~ん、やっぱ気になるのは 斗真くんとボクが入れ替わりで見える ようになったことだよねえ」 やはりここだろう。 当番が入れ替わるようにボクらに 与えられたこの能力。どうも偶然とは 言えないこの事実。そう推理する冷静な 頭の隅であーどうせならもっと格好いい のか便利なのが良かったー、なんて 馬鹿みたいなことを考えているボクも 居た。すると、斗真くんが先ほどの ボクの発言に同調して言った。 「だね、ある条件を満たせば能力は 移動する、とかなのかなあ」 「あーそれ超ありえるー」 斗真くんの言葉に思わずギャルの ような喋り方で軽く返してしまったが、 それは本気であり得る。時間が立った から、というのもまあ可能性としては あり得るが、3日立てば消える、という のは何というか、曖昧じゃないか。 …それは所謂ご都合設定というやつで、 現実でもそれはあり得るのだろうか。 それにこれはよくある薬で性別が 変わってしまって薬の効果が切れる まで戻れない、なんて事じゃないし、 多分、何かしらちゃんとした条件が あるのだろう。それなら斗真くんが 条件解明のキーになるのだろうか。 僕は斗真くんに何気なく聞いてみる。 「能力が消える前に何かそれまでと 変わったことがあったりは、? 」 「変わったこと、…」 「能力が無いことに気付いた時とか、 ほんと小さいことでも良いから」 当日のことを思い出しているのか、 むむむ、と唸りながら難しそうな顔を している斗真くん。その様子をメロン ソーダをストローで吸いながら見つめて いると、斗真くんは突然何かに気付いた ような顔をした。と思えば、顔を赤く してみるみる席の隅っこにしぼんでいく。…何だこれ。そしてもじもじと いじらしい動きをしたあと、ぽつりと 小さく呟いた。 「蓮さんと…その、きっ、…き、す」 「え、何て? 」 「…、キス、したら見えなくなった、」 顔をこれ以上無いくらいに赤くして いる斗真くんは恥ずかしそうに俯いた。 …いくら斗真くんでも惚気は聞きたく ないよ、そう言おうとしたボクだったが、そこでとあることを閃いた。 「な、なんて、関係ないよね」 「…いや、案外的外れじゃないかも」 「ね、斗真くん」 「な、なに? 」 まだ恥ずかしいのか赤い顔を手で 覆っていた斗真くんがほっぺたに手を 添えたままこちらを見上げた。 一瞬ただの惚気かと思ったが、 『キス』もしかするとそれが条件なの かもしれない。だって運命の赤い糸が 見える能力なわけだし、違ったとしても 恋愛に関する条件の可能性が高い。 「ボクと、キスしてくんない? 」 「へぁっ!?? えっ、えっ? 」 「違う違う! もしかしたらキスが 能力解除の条件なのかもと思って! 」 何やら勘違いしていそうな斗真くんに 必死にそう言うと、斗真くんは考え込む ような素振りを見せた。親友の斗真くん なら他の人とキスするよりも全然マシ だし、ボクの状況を理解してくれている から納得してくれるかもしれない。 「…条件、んーたしかに。 その伊織くん…でも、やっぱり、」 「ほんとっ一生のお願いっ、! 」 断ろうとする斗真くんに畳み掛ける ように手を合わせてそう言うと、明らか に斗真くんの瞳が揺れた。蓮さんが ものすごく独占欲強いのも知ってるし、 きっと他の人とキスなんてしたら 斗真くんが罪悪感に襲われるであろう ことも分かってる。勿論後で死ぬほど 蓮さんにも斗真くんにも謝るし、まじで 何でも言うことを聞く。真剣に斗真くん を見つめていると、ゆっくり口を開く。 「………いいよ、」 「本当に!? 」 自分で聞いたくせにそう大げさに 驚いたボクは斗真くんに何度も本当に いいの?と聞いた。自分で言っといて 何だって感じだけど。10回くらい 言ったところで早いとこやんないと、 本当にもう出来なくなるから、と 真っ赤な顔で咎められてしまった。 「じゃ、するよ、? 」 「う、うん」 不安そうに言った斗真くんはゆっくりと 目を閉じた。ボクは顔を近付ける。 顔が近くなって斗真くんが僅かに震えて いることに気付き、罪悪感が沸いた。 大事な友人とするキスは緊張感が全く 違う。もうすぐでお互いの睫毛が触れ そうなくらいの距離まで近づいた。 …あああごめんね斗真くん! ボクは一気に顔を近付けた。 「ちょっちょっと待ったあああああ! 」 唇が触れる、直前に横からそう叫ばれ、 ボクらは緊張で強張っていた肩をびくり と震わせた。そして恐る恐るといった 様子でその声の主を見た。そこには、 走って来たのか知らないが、はあはあと 肩で息をしながらボクを半ば睨み付ける ように見ている薄い茶髪の男だった。 斗真くんはこの男を知らないらしく、 不思議そうに男を見つめていた。 …ボクは、コイツを知ってる。 ボクは男に冷たい視線を向けて言う。 「…何なんですか、八尾翼先輩」 何かすごーく面倒な予感するわ。 自嘲するようにボクは苦笑いをして 目の前で異常に焦っている男を見た。 そこでボクはあることに気付く。 …あれ、先輩の赤い糸もしかして… ……………切れてる?
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