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銀チャリくん出番です
高校生活が、いよいよ始まった。
新興住宅街は、山のふもと。
街に降りて、また山に戻る。
高校生は、体力勝負。
街へ行くときは、住民たちの間では「下に行く」と話した。
子供たちは、ここで生まれ、ここで育った。
小学校、中学校は、通学バスで通った。
高校からは、地獄が待っていた。
生ぬるい状況で暮らしていた金魚が、真水に、離されるように。
これから3年間は、過酷なものだった。
住宅街の、山から直線で4キロ。
通称、地獄の坂と呼ばれていた。
ここをクリアしないと、街には行けない。
週末になると、ロードバイクのサイクリングコースになっていた。
坂との戦いに敗れ、いつしか、親の車で通学するのが定番だった。
だいたいが、同じ学年の家、家族を知っていた。
ときには、助け合った。
(乗り合いした)
ヨッシーの学年は、わりと、次男、次女が多かった。
学年でも勉強嫌い。
仲良し。
オシャレに、関心あり。ゲームも好き。
学校全体からの期待も薄く。
運動の応援と、合唱なら得意という、「元気だな~」としか言いようなかった。
親も、期待しなかった。
ハルコも、勉強に力を入れてなかった。
「今年は、自転車通学多いな~」
兄弟の2番目。
やんちゃな学年は、体力もあった。
自転車が、つぎつぎと、直線道路へやってきた。
新しいリュック、制服、運動靴、自転車。
ピカピカの高校一年生である。
中学では、持ち込み禁止のスマホも、
堂々と、ご持参である。
朝日を背に負い、若い青春たちが、つぎつぎと、山から街へ下って行った。
「いってくるよ~」
「気をつけてね」
ヨッシーの自転車通学がスタート。
家から学校まで、片道14キロ。
約40分、自転車をこぐ。
山から海へ向かう。
細い自転車のタイヤが、走り出した。
シルバーの自転車は、26インチのシティサイクル。
特売でメガドンキで買ってきた。
価格重視で、ギアなし。
持ち帰りするときは、地獄の坂を、ハルコは汗だくで運んだ。
銀チャリ君は、あまり街には行ったことなかった。
近所の塾。
コンビニ。
友達の家。(近所)
ほんの300メートル。
遠出の最高記録は、海とゲームセンターまで。
「気をつけて、行っといで。」
ヨッシーの後ろ姿を見ながら、玄関を、ほうきではいた。
新しいスラッシャーの黒いリュックが、ズンズン遠くになった。
「いったか~」
とうとう見えなくなり、ハルコは仕事へ行く準備を始めた。
なんでも、コンビニ前で、友達と集合だそう。
同じ学校に5人、ここから向かう。
なんと、心強いことか・・・。
そして、忘れてた。
この子たちは、遊ぶことが大好き。
普通に帰宅したのは、ほんの数日ばかり。
やりそうだな。
あいつらなら。
山から離された、お猿さんが、街に出て自由を知る。
楽しくてたまらない。
ヨッシーたちは、楽しいことが大好きなのである。
街は、新鮮である。
ずっとぉ~ほしかったiPhoneと、自由。
学校の帰りは誘惑ばかり。
小銭があればなんとかなる。
銀チャリ君のご帰宅は、星の時刻だった。
ポケットには、半額シールのおにぎりのゴミ。
ペットボトルに、500ミリの缶ジュース。
駄菓子の紙ゴミいっぱい。
「またぁ?まじぃ?パンクだと?ほんとかね?」
「1000円かかった。借りた友達に。」
「なら、心配だからお金持っていきなさい」
「おお。すまない。」
この千円が、いつも消えた。
銀チャリ君は、クタクタになっていた。
パンクしてあちこちの自転車屋さんを、巡った。
友達の範囲も拡大に増えていった。
ヨッシーは、真っ暗い夜でも、地獄の坂をのぼってきた。
行くときは、自転車。
帰りは親にSOS!
車に、自転車を運ぶスタイルのお友達も増えてきた。
ハルコの車はムリ。
ハスカップ号は、ダイハツミライース。
まず、このスタイルは不可能である。
軽自動車のなかでも小さく、自転車を乗せるスペースゼロ。
やがて、一週間が過ぎた。
ヨッシーは、汗だくで帰ってきた。
帰宅後。
疲れ果てて寝た。
文句言いだした。
銀チャリ君を、けりだした。
「くそ自転車」と話した。
クタクタの銀ちゃん、雨に打たれる。
帰ってきてから、物置に入ることなく、玄関で力尽きていた。
ときに、鍵をつけっぱなし。
旦那の車にもたれかかっていた。
ヨッシーの扱いは、散々だった。
銀チャリ君は、体力なしのヨッシーには、行きは良い子。
帰りは鉄くずの、ガラクタ太郎となっていた。
その後、悲劇に見舞われるとは・・・・。
そのお話は次回でね。
地獄の坂道は、いつしか、桜が満開になっていた。
遅咲きのピンク色の桜が、4キロにもわたり満開に咲いた。
ピカピカの高校生は、ピンクの花びらの中、輝いていた。
誰もが。
ザ・青春であった。
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