銀チャリくん出番です

1/1
前へ
/45ページ
次へ

銀チャリくん出番です

高校生活が、いよいよ始まった。 新興住宅街は、山のふもと。 街に降りて、また山に戻る。 高校生は、体力勝負。 街へ行くときは、住民たちの間では「下に行く」と話した。 子供たちは、ここで生まれ、ここで育った。 小学校、中学校は、通学バスで通った。 高校からは、地獄が待っていた。 生ぬるい状況で暮らしていた金魚が、真水に、離されるように。 これから3年間は、過酷なものだった。 住宅街の、山から直線で4キロ。 通称、地獄の坂と呼ばれていた。 ここをクリアしないと、街には行けない。 週末になると、ロードバイクのサイクリングコースになっていた。 坂との戦いに敗れ、いつしか、親の車で通学するのが定番だった。 だいたいが、同じ学年の家、家族を知っていた。 ときには、助け合った。 (乗り合いした) ヨッシーの学年は、わりと、次男、次女が多かった。 学年でも勉強嫌い。 仲良し。 オシャレに、関心あり。ゲームも好き。 学校全体からの期待も薄く。 運動の応援と、合唱なら得意という、「元気だな~」としか言いようなかった。 親も、期待しなかった。 ハルコも、勉強に力を入れてなかった。 「今年は、自転車通学多いな~」 兄弟の2番目。 やんちゃな学年は、体力もあった。 自転車が、つぎつぎと、直線道路へやってきた。 新しいリュック、制服、運動靴、自転車。 ピカピカの高校一年生である。 中学では、持ち込み禁止のスマホも、 堂々と、ご持参である。 朝日を背に負い、若い青春たちが、つぎつぎと、山から街へ下って行った。 「いってくるよ~」 「気をつけてね」 ヨッシーの自転車通学がスタート。 家から学校まで、片道14キロ。 約40分、自転車をこぐ。 山から海へ向かう。 細い自転車のタイヤが、走り出した。 シルバーの自転車は、26インチのシティサイクル。 特売でメガドンキで買ってきた。 価格重視で、ギアなし。 持ち帰りするときは、地獄の坂を、ハルコは汗だくで運んだ。 銀チャリ君は、あまり街には行ったことなかった。 近所の塾。 コンビニ。 友達の家。(近所) ほんの300メートル。 遠出の最高記録は、海とゲームセンターまで。 「気をつけて、行っといで。」 ヨッシーの後ろ姿を見ながら、玄関を、ほうきではいた。 新しいスラッシャーの黒いリュックが、ズンズン遠くになった。 「いったか~」 とうとう見えなくなり、ハルコは仕事へ行く準備を始めた。 なんでも、コンビニ前で、友達と集合だそう。 同じ学校に5人、ここから向かう。 なんと、心強いことか・・・。 そして、忘れてた。 この子たちは、遊ぶことが大好き。 普通に帰宅したのは、ほんの数日ばかり。 やりそうだな。 あいつらなら。 山から離された、お猿さんが、街に出て自由を知る。 楽しくてたまらない。 ヨッシーたちは、楽しいことが大好きなのである。 街は、新鮮である。 ずっとぉ~ほしかったiPhoneと、自由。 学校の帰りは誘惑ばかり。 小銭があればなんとかなる。 銀チャリ君のご帰宅は、星の時刻だった。 ポケットには、半額シールのおにぎりのゴミ。 ペットボトルに、500ミリの缶ジュース。 駄菓子の紙ゴミいっぱい。 「またぁ?まじぃ?パンクだと?ほんとかね?」 「1000円かかった。借りた友達に。」 「なら、心配だからお金持っていきなさい」 「おお。すまない。」 この千円が、いつも消えた。 銀チャリ君は、クタクタになっていた。 パンクしてあちこちの自転車屋さんを、巡った。 友達の範囲も拡大に増えていった。 ヨッシーは、真っ暗い夜でも、地獄の坂をのぼってきた。 行くときは、自転車。 帰りは親にSOS! 車に、自転車を運ぶスタイルのお友達も増えてきた。 ハルコの車はムリ。 ハスカップ号は、ダイハツミライース。 まず、このスタイルは不可能である。 軽自動車のなかでも小さく、自転車を乗せるスペースゼロ。 やがて、一週間が過ぎた。 ヨッシーは、汗だくで帰ってきた。 帰宅後。 疲れ果てて寝た。 文句言いだした。 銀チャリ君を、けりだした。 「くそ自転車」と話した。 クタクタの銀ちゃん、雨に打たれる。 帰ってきてから、物置に入ることなく、玄関で力尽きていた。 ときに、鍵をつけっぱなし。 旦那の車にもたれかかっていた。 ヨッシーの扱いは、散々だった。 銀チャリ君は、体力なしのヨッシーには、行きは良い子。 帰りは鉄くずの、ガラクタ太郎となっていた。 その後、悲劇に見舞われるとは・・・・。 そのお話は次回でね。 地獄の坂道は、いつしか、桜が満開になっていた。 遅咲きのピンク色の桜が、4キロにもわたり満開に咲いた。 ピカピカの高校生は、ピンクの花びらの中、輝いていた。 誰もが。 ザ・青春であった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加