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銀チャリ君の悲劇(1)
「迎えに来てくれ!」
「なに?ばかでね~の」
「たのむ」
「母さん、もう、寝てんだよ」
時計をみると、時刻は夜の10時すぎ。
「どこにいるのさ。」
「フェリー乗り場」
「はあ?」
「自転車どうすんの?」
「わからん」
「ひとり?」
こう話すと、言葉につまった。
さては、誰かいるな。
ヨッシーの声のトーンが、下がった。
「リン」
「はぁ?」
ジャイアンこと、倫太郎。
友達かどうか?最近でてきた?
昔から知っているけど、タイプの違う同級生である。
「まったく。待ってなさい。」
「学校前のコンビニの前にいなさい!」
「おう」
急に元気になるのは、いつものこと。
最近は、どの子とつるんでいるのか?把握できなかった。
ただ、ちょっと、タイプの違うジャイアンも、仲間に加わった。
ジャイアンも、いいところもあった。
自転車のパンクでは、格安店を教えてくれた。
コンビニで買わず、スーパーの半額を教えてくれた。
お金の使い方ができていた。
温室育ちのヨッシーは、コンビニでしか買い物しない。
値段を見て買うことをしらない。
わがままだった。
叩けば増える、ビスケットの歌じゃないが、
お金も増える。
ヨッシーのおねだりに、つい答えてしまっていた。
わたしたち、家族全員の責任である。
中学時代も、送り迎えした。
美術部の男の子は仲が良くて、毎年、花火大会へ行った。
定員オーバーの日もあった。
「一人多いから、隠れて乗るんだよ。」
「ほーい」
隠れるほどに、大騒ぎした。
男の子たちは、うるさい。
あの子たちは、まだ、かわいらしかった。
(高校生活3年間。始まったばかりざんす。また使われるな~)
覚悟はしていたけど、どうも、疲れる。
布団から抜け出すと、身体を伸ばした。
「よし!いくかぁ」
「どこいくの?」
寝ぼけた夫が、話した。
「迎えに行くのさ。学校に」
「え!いまから」
「気をつけてね」の声が小さくなる。
布団にもぐって消えた。
この人は、まったく、頼りなかった。
わかっているから、ヨッシーも頼まない。
ずるがしこいだけだ。
布団から飛び起きると、冷蔵庫の中から、缶コーヒーを取り出した。
パーカーのポケットへ入れる。
ハスカップ号のカギも入れた。
そとは暗い。
そりゃ~夜だもの。
夜10時ときたら、深夜だ。
若者が動き出す、遊びだす、怖い時間。
夜イコール怖い。
思いがけない出動に、ハスカップ号は、びっくりしてた。
「行くぞ!深夜の学校へ」
「まじっすか?」
「気をつけるんだよ。夜はヤンキー車が活動する時間だからね」
「はい」
エンジンをかけると、缶コーヒーのふたを開けた。
「夜は、怖いっす」
「わかるよ。」
「地獄坂のあおりは、はんぱないっす!」
「大丈夫。ガッツリ、ゆっくり走ると、勝手に、追い越すから」
「なるほど」
「それより、いっもいるな。」
「うんだ!」
「ジャイアン?」
「そうそう、最近多いね」
「朝も一緒に行っているもんね」
「情報によれば、友達5人で行っているんだよ」
「ほ~男の子、5人は迫力だね」
「んだ」
明日は、学校がお休み。
遅くなるとは思っていたものの、迎えに行くとは予想外だった。
ハスカップ号は、真っ暗い坂を下にむかい走る。
地獄坂の桜は、青白かった。
暗闇から、光がひとつ。
前から自転車をおした学生が、歩いてきた。
片手にはスマホ。
スマホの光が、顔を照らした。
なんということだ。
ヨッシーみたいな高校生が、山めざして歩いていた。
「やっぱり、中学生とはちがうね」
「そうっすね。自由です」
ハスカップ号は青色の信号機の光を越した。
国道に出る。
オレンジ色の街、街灯のあかり。
若い人が運転するの車が横に並ぶ。
いい車ばっかり。
信号機で並ぶと、磨かれた車のホイルをみた。
ハスカップ号ときたら、場違いである。
「ごめんなさい、わたくしは、明るい時間帯のみの専用車両です」
ガソリンスタンド。
炭焼きの香り漂う焼き肉屋さん。
カーショップのショーウィンド。
円盤形の陸橋。
フェリーから降りたばかりの大型トラック。
山岡家の駐車場、満員の車。
やきとり弁当の看板。
朝とは、違って見えた。
若者が「ワクワクしそう~」な、夜の街だった。
到着!
学校の前にある、コンビニエンス・ストア。
大きなシルエット二つ。
「いたど」
「うんだ」
ハルコと、ハスカップ号は、二人を睨みつけた。
「うぃっす」
「お願いします」
「なにが、うぃっすか」
「ごめんごめん」
ヨッシーは笑った。
「自転車は?」
「学校の駐輪場です」
ジャイアンが話した。
「なるほど、頭いいね。」
「まんざらでも~」という顔で、ジャイアンは笑った。
学校の駐輪場には屋根がある。
暗闇に、二台のシルバーの自転車がみえた。
ふたりは「ヒヒヒヒヒ」と、へんてこな声を上げた。
コンビニの小さなビニール袋に、あふれるばかりの小魚が入っていた。
しっぽが出ている。
非常に生臭かった。
ふたりは、なにが、面白いのやら笑った。
手には、茶色い泡がぶくぶくした、2リットルのコカ・コーラのペットボトルがあった。半分は飲んでいた。
「なんで?コカ・コーラ、?デカ?2リットル?」
「もらった」
「だれに」
「知らん人」
「ヒヒヒヒヒ~」
ふたりは声を殺して笑った。
クラスでは、学校帰りに釣りに行くのを日課にしている子がいるらしい。
その子に、ついていったらしい。
で、釣りをして、小さなアジと、得体のしれない魚を釣った
そのうちに、別のクラスの、ヒップホップ好きの男の子がきて、太いタイヤの自転車ファットバイクを、乗せてくれたらしい。
音楽をかけて、おそらく騒いだのであろう。
絶対に、騒いだに違いない。
時間がたつごとに、見ず知らずの人も来て、コカ・コーラ2リットルをくれた。コップがないので、ラッパ飲みしたらしい。
まるで、一升瓶をもった親父である。
これは、宴だ。
ヒップホップの音楽と、タイヤの太い自転車の、パフォーマンス。
部族のしきたりで、コカ・コーラをラッパ飲みして、交流を深めたということだろう。釣れた魚を神にささげた?てなわけだ。
これは、ハルコの想像である。
ふたりは笑っていた。
「さぁ。帰るよ」
ハスカップ号は、山を目指して再び走り出した。
銀チャリ君は、それから、しばらく学校へ置き去りになった。
雨が降ったのである。
雨がやんでも置き去りは続いた。
ハルコに叱られ、ようやく山へ連れ帰ってきた。
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