雨のはじまり

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雨のはじまり

嫌な予感はしていた。 どうも、きな臭さはあった。 ハスカップ号も「たしかに・・前途多難ですわ」と話した。 「あんた、なんで。約束したの!」 「なんでかぁ、なあ?こういう流れになった」 「はぁい?」 でかい声が車内で響いた。 入学早々の雨。 コンビニの駐車場で、ヨッシーとハルコは、どういった流れでこうなったか?と、「説明しなさい」「知らない」の押し問答がおこなわれていた。 大粒の雨が、薄い軽自動車の屋根にぶつかる音が響いた。 「コリクなら、わかるよ」 「うん」 「マサキはどうするの?」 「さあ」 「しんちゃんは?」 「さぁ」 「で。なんでまた」 「ながれで」 そう話すと、ヨッシーは、スマホをいじりだした。 車に、透明のビニール傘が近づいてきた。 話はおしまい。 ギャンギャン騒いでいたスズメが、タカが現れシーンとなったような展開だ。 雨傘をたたむと、体格のいいジャイアンが乗り込んできた。 大きなリュクに、エナメルの赤い靴。 朝から、迫力満点だ。 「お願いします」 さすが。スポーツをしてただけあり、礼儀正しい。 「はい。おはよう」 さっきまで、金切り声をあげてた、ハルコは、よそいきの声を出した。 なんという変わりよう。 汚い大人だ。 自分でも、こういう大人は、ワザとらしい。 と、思いつつも。 バックミラーをチラ見しながら、これ以上、友達同士の会話に入っていってはいけないと、誓った。 高校まで、片道30分。 往復すると、家に着くのは1時間。 今日から、高校生。 雨のスタート。 土砂降り。 大粒。 ここは、市外から北東方面にある、新興住宅街。 交通の便は、しどく悪い。 不便きわまりない、住宅街だ。 フルタイムで働く母親なら、中学時代から、バスで通える圏内で高校を探すだろう。 クルマで送るのはしんどい。 偏差値の高い高校は、市営のバスでも通える。 あと一歩。 いや、あと100歩。 頑張れば、ヨッシーだって入学できたのだ。 ハスカップ号もうなずいていた。 「そう、そう、奇跡の、実力テスト(社会科)100点)。あれは、 中学3年生だったな~ちょっと遅いな~♪」 「ほんと、そうだね。手遅れな夏さ」 勉強は、とくに、数学は、積み重ねてきたものの結果である。 小学生から、遊びほうけてたら、つまずいては起きられない。 ゲームの世界では、神でも。 よっぽど、努力しないと。 漢字は書けない。 練習しない。 数字は嫌い。字は汚い。 特技と言ったら。 早く寝ること。 う~ん。 もう一つ。 おしゃべりが得意なこと。 あ~そうだ! 絵が上手くて、クリスマスの絵!コンテストで2回も優秀賞もらったこと! あんときは、担任の男の先生が、「え~また選ばれたの!」と、褒めるどころか、疑問符の言葉をかけた。と、ヨッシーはカンカンに怒っていた。 「あいつ!」 と、段ボール箱をけって、足を痛めてた。 金色の腕時計をして、保護者の前では、お姉言葉になると、話してた。 子供だぅて、なんでもわかるんだ。 水泳が得意なこと。 友達がたくさんいること。 かな? 「宿題やってきた?」 「あ~あ~まぁ」 ミラー越しに、見る限りでも、師弟関係は成立していた。 幼稚園から始まり、現在に至るかぎり。 ヨッシーと彼は、接点なし。 いままさに「はじめまして」の関係だった。 たまたま同じ高校の、同じ科に所属することとなり、流れでライン交換。 母が、仕事なので、送ってもらう展開になったわけだ。 ジャイアンのことは、さっぱりわからなかった。 大昔、幼稚園時代。 ヨッシーの仲良しの、リクくんの首をしめたとか。 すぐに叩くとか。 乱暴者という印象しかない。 「タイプ」がちがうと、思っていた。 はじまりは、こんな感じ。 ふたりは、ときどき言葉に詰まると、ジャイアンが気を使って、スマホのゲームの話を振ってきた。 興味をもったヨッシーも、話に乗って、二人で笑っていた。 (気を使っているんだな~)とハルコは思った。 「案外、いい子かもよ!」ハスカップ号も話した。 学校へ近くなるほど、車が増えていった。 たまに、こんな大雨でも、自転車に乗っている生徒もいた。 私服の学校。 高校1年生。 信号待ちの一本道を、ハスカップ号は走る。 学校の校門をぬけると、いつのまにか?ルールがあるようで、まあるい円を描くようにして送迎する父母のクルマは並び、子供たちを車から降ろしていった。 学校の向えにあるコンビニの前には、ごっそりと男の子たちの固まりがあった。 その様子をみると、ジャイアンの顔つきが変わった。 ヨッシーとゲームの話をしていた、穏やかな顔つきは消えて、ギラギラ本来のやんちゃな顔になっていた。 変身である。 降りる順番がきて、ジャイアンとヨッシーが車から降りた。 コンビニから歩いてきた、悪ガキ風な男子に、ジャイアンはにやけた。 白いアディダスのジャージに金の線が入ってる。 あきらかに、ヤンキーだった。 ジャイアンは、嬉しそうに仲間に吸い込まれていった。 ヨッシーは、さっさと玄関の方へ歩いて行った。 ハルコは、ハスカップ号へ話しかけた。 「ほれ。やっぱりね。利用されてるね」 「はい。そのようですね」 大雨の中、こりゃこりゃ、高校生活。 波乱の始まりだと思った。 春・夏・秋・ふゆ・ いろんなお天気があるに違いない。どうなることやら~。 雨は、ゴーゴ―音を立てて、まっすぐに降り始めた。 「はやく。帰ろう」 「そう、しましょう」
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