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熱を帯びた世界は終わり、静寂と闇の世界が現れた。
水面に映る月は波紋で霞み、穏やかな光を落としている。背の高い木々が作る「森」の中。セリとナズナ。二人の根なし草は、湖畔に佇んでいた。
「本当に行くんですか」
「……」
セリは無言で頷いた。
水辺は野宿には向かない。氾濫した時、咄嗟に逃げられないからだ。
故に二人がここにいるのは、眠る為ではなかった。
「相手はホトケノザさんです。いい事にはならないですよ。絶対」
「……」
セリは再び無言で頷いた。
湖の上はぽっかりと空いていて、紺碧の夜空が見えていた。
粉雪を吹きかけたような光、光、光。静寂に包まれた闇の中で、ナズナは緑色になった腕を、そして首から下げた小瓶を交互に見つめていた。
「……何かがある」
セリが口を開いた。
「……奴が俺達を呼ぶなら、そこには大きな理由がある」
「例え悪いことだったとしても、ですよね」
「……そうだ」
ナズナは柔らかな草の上に座った。
「そろそろ、ですね」
「……」
「去年は見れませんでしたし。今年はいっぱい居るといいなぁ」
二人は湖の淵に並んで、湖を見つめた。
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