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そこにあったのは光だった。
湖の周りの草という草に、小さな光が灯った。輝きはぼんやりと闇の中に広がり、微かに明滅する。まるで星空が落ちてきたかのような光景が、二人の目の前には広がっていた。
「……黒窓蛍」
「秋でも光ってくれてよかったです。源氏蛍や平家蛍だと、夏が過ぎると見れなくなっちゃいますから」
黒窓蛍の幼虫は、草から大きく離れることなく、湖の周りを仄かに照らした。
一匹では夜に飲まれてしまいそうな光。何匹集まっても、闇夜には敵わない光。
「今年も一年生きたなぁって、蛍を見ると思うんです」
ナズナは呟いた。
「去年は見逃したから二年ですね。一昨年の蛍はもうこの世にいなくて、去年の子も同じ。エレオネラさんの巣にいた方々も、今日はもういないかも知れません」
「……」
「ホトケノザさんの所に行ったら、蛍は今年で見納めかもしれませんよ」
「……そうだな」
セリの足に光が灯った。
「それでも行こうと思います? 何も起きない可能性と、最悪の可能性。後者の方が圧倒的に高いのに、自分から危険の中に飛び込んでいくんですか? 」
それは足を上り、胴を上り、やがて肩に辿り着いた。
セリの黒いジャケットに、小さな白い光が点いた。
「それでもセリが旅を続ける理由は? 」
ナズナは尋ねた。
セリの意思を確かめるように、ゆっくりと尋ねた。
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