「旅の途中」

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 そして炎は消えた。  鮮やかな緑は夜の闇に包まれ、すっかり黒く変わっていた。  熱の消えた土の上で、ナズナはコートに包まっていた。地面に浮き出た太い 根を枕の代わりにして、静かな呼吸と共に目を閉じていた。  ナズナから少し離れた所にセリがいた。  黒いジャケットの肩に露が落ち、小さな飛沫を散らして消えた。 「少し硬い、ですね」 「……」  二人の間ではそれが会話だった。 「次の(さと)には布団がありますように。食料も買い足さないと」  ナズナが小声で尋ねると、 「……」  セリは黙って頷いた。  木々の隙間では仄かな光が舞っていた。光は暗闇を穏やかに上下しながら、時に重なり、時に離れを繰り返していた。やがて光はひとつ、またひとつと地面に落ちていき、輝きを失って地面に溶けた。 「また、誰かが帰った」 「……」  セリは光が染み込んだ地面に目をやると、静かに目を閉じた。   「いつか私が帰ったら、セリはどうします? 」  ナズナは夜空に向かって声を飛ばした。  木々の合間から見える黒い空は、雲ひとつない晴天だった。 「一人で旅を続けますか? どこかの郷に住みます? 故郷(ふるさと)でのんびり暮らします? 」 「……」  セリは薄く目を開くと、白い息を吐いた。 「……続けるさ」 「どうして続けたいんですか? 旅は危険だし、森には蟲もいる。今までも何度も酷い目にあったし、辛いことも悲しいこともありましたよね? 」  ナズナは会話を引き伸ばそうと、畳みかけるように続けた。 「……」  セリは黙って頷いた。 「それでもセリが旅を続ける理由は? 」  ナズナは尋ねた。  セリの答えを聞き出すために、尋ねた。
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