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冬のある日、街で偶然美咲を見つけた。
間違いなく美咲だった。僕にはそれが分かった。
僕は、彼女の後をつけた。自然とそうしていた。
僕の心臓は暴れまくっていた。
大舞台でソロパートを初めて担当した時よりもはるかに緊張していた。
美咲は、小さな雑居ビルの一階に入っていった。
そこは保育園だった。自動ドアの向こうに、園児たちと先生、そして美咲がいた。
美咲は一人の少年を引き取り、先生にお辞儀をした後、入り口へ歩いてきた。
僕は急いで入口から離れ、コートの襟で顔を隠した。しかしその必要はなかった。僕は外を出歩く時は必ずマスクをしている。芸能人の宿命だ。
美咲は道の向こうへと歩いていく。
彼女の右手は、少年の左手を握っている。
「……いい相手が、見つかったんだな」
美咲は誰かと結婚して、今では子供がいる。
僕はそれを祝福するべきなんだ。
でも、心にわいてくるのは、美咲の結婚相手への嫉妬の念、そして、美咲への未練だけだった。
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