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13年後
美咲と別れてから、13年が経過した。
僕は相変わらず、俳優として活動している。
僕の夢は叶った。
僕は俳優として成功することを夢見て、それが今では達成されている。
ルックスはともかく、演技力にはかなり問題があった僕がここまで生き延びることができたのは、偏にファンのおかげだった。ファンの支えがなかったら、僕はとっくの昔にドロップアウトしていたはずだ。
「皮肉なものだ」
僕は一人、自宅のソファに寝転がり、そう呟く。
僕が女性ファンに支持された要因は、恋愛面でのクリーンさだった。
僕はファンとも共演者ともテレビ関係者とも一切、恋愛的な付き合いはしなかった。たまに金でプロと寝ることはあっても、誰かと永続的な恋人関係を結ぶことはなかった。
そういったクリーンさは、僕のようなルックスだけが取り柄の無能が生き延びるには必要不可欠だ。
我々の業界では「恋愛をしない」=「ファン想い」なのだ。そういう認識で、世の中は動いているのだ。
美咲と別れ、僕の心の「愛」を司る部分が失われたおかげだ。
美咲が、僕の「誰かを愛したい」という欲望をごっそり持ち去ってしまったおかげで、今の僕があるのだ。
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