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1 修羅場慣れしています(※一部R18表現あり)
「あっ、あん、あっあっあっ、いく…いくぅ…あ!!」
「……ハッ、ハァ…俺も…っ」
激しい突き上げが狭い道を擦って、ローションが泡立っている。
もう、どれくらい抜き差しされているのか。
揺さぶっていた男の動きが止まり、一度体を引いて、ずん、と奥迄突き込まれたようだ。ぶるりと震えて、彼の中に放つ男。
どさり、と男が彼の上に覆いかぶさって、2人は荒い息をしている。
少し落ち着いたかと思しき所で、さてと、と俺は腰を上げて、ドアを少し開けて隙間から声をかけた。
「終わった?もう一回戦行く?」
ばっ、と2人が俺を見る。
血の気が引いて、強張った顔。
因みに組み敷かれていたのが俺の番になる予定だった交際5ヶ月目に突入したばかりの彼氏で、彼に一生懸命腰を振っていたのが俺の友人だった男だ。
で、どうやら今回もやっぱり俺は、当て馬だったって訳らしい。
ま、最初から大体こうなるだろうって踏んではいた。
だから何時でも出ていけるようにカートに必要な荷物は詰め易くしといたんよ。
1時間前、俺が仕事から早上がりで帰って来た事に気づかずに、こいつらはおっぱじめていたんだけど、まだまだ序の口っぽかったから取り敢えず俺は少しだけ開いていたドアをそっと閉めてあげた。
ヤる時はきちんと閉めて。
不用心だゾ。
それから自室に入り、荷物を詰めた。
俺はあんまり荷物が多くないほうだから、必要最低限のものさえあれば何処にでも行けるし住める。
恋人が出来て誘われれば同棲もするが、裏切られれば未練は残さない。
人も物も捨てても、仕事さえあれば生きては行けるからだ。
今回は大丈夫かと思った。
何度も恋人に裏切られていた俺の事情を知りながらもずっと想いを寄せてくれていたと告白してくれた人だったし、友人も勿論、俺の事情を知ってた。親友に近い間柄だと思ってたのは俺だけだったみたいだ。
でも、正直、こういう事には慣れている。
慣れているけど、悲しくない訳ではないから、悔しいけど少しは顔に出てしまう。
「あ、あの、さ…あき、これは…、」
「ごめん、暁、ごめん!!でも僕っ、」
「うん、良いよ。」
俺の言葉に、えっと驚く2人。暖房もついてないのにマッパは寒くない?風邪ひきそう、見てる俺が。気をつけて。
「何と言うか、ご存知の通り、俺の周りって大体こうなるからさ。気にしないで。」
俺の恋人だった彼は可愛い顔を蒼白にして唇を震わせているし、端正な顔立ちのイケメンである友人の肩は小刻みに震えている。
「そういう星回りなのかな。じゃ、元気で。また会えたらよろしくな~。」
「へ?」
「あ?」
俺は、最後くらいは見苦しくないようにと笑って2人に手を振り、カートを引いて玄関に向かう。
「いや、あき?」
「ちょ、え?どこ行くの暁?!待って、待ってって!!」
「だ~いじょ~ぶ~。気にしないでお幸せにな~ぁ。」
何だかドタンバタン派手な音がする……まさかシーツか毛布につまづきでもしたのか。
まさかな。
それにしても、アイツら避妊具無しだったみたいだけど、大丈夫かな?
ま、番になるなら問題ないか。
俺は玄関を出て鍵を閉め、階段を降りて表に出た。
ちょうど道沿いで人を下ろしたタクシーがいたので、乗せてもらう。
「どちら迄?」
「えーっと、そうだな…リシアホテル迄。」
リシアホテルとは、ここから15分程度のでかい駅前にあるホテルだ。
従姉妹の姉ちゃんがこないだソコに異動になったって聞いてたから、一度泊まってみたかった。
打たせ湯が人気との噂。
でも贅沢は今日1日だけ。
ホラ、一応傷心だからさ…。
でも明日からはビジネスか、社員寮にでも申請出すかなあ。こんな事を常日頃から考えていた俺も、どうかとは思う。
でもな。
信じていた人達に裏切られ続けると、もう信じても信じなくてもどうせ結果は同じなんだろうなって思うようになるものだ。
そうなるってわかってて、好きになってしまう俺も、大概だが。
泣くのも喚くのも飽きてしまった俺には仕事と金しか残っていない。
「さて、バリバリ働くかぁ~。」
やはりいざと言う時に頼りになるのは、人より金である。
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