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その後 ② 佐田 慶一
叔父の高校時代からの友人だと言うその番カップルにコンタクトを取れて その邸を訪ねた時、本人達を見て意外に思った。
身長もほぼ同じくらい、体格的には同格。
何方も何処から見てもα。
しかしΩに転じたという方は確かに気配や雰囲気が柔らかい、ような気がした。
コケティッシュな美貌の、ちょっとゾクッとするような色香を放つ男だった。
まあ…女にモテそうだが、この色気ならアテられて固執する男がいてもおかしくはないと思わせる。
暁が清廉な水に棲む魚なら、その人は混沌とした汚泥の中でこそ艶やかに咲く花のような。
全く正反対のタイプだ、と思った。
そして、そんな彼をΩに堕としたαの方は。
これまたかなりの上位、多分ランク的には俺とそう変わらないような、硬質な美しさを持つ男で、強いカリスマ性を感じる。
確かにこの男の隣には彼しかそぐわないと思わせるような、1枚の絵のように完成された2人だった。
そして、2人の掛けているソファの横にはベビーカー。
その中には1歳になるという男の子がすやすやと寝ている。
幼いながらに既に目鼻立ちの秀でた綺麗な顔をしていた。
「俺、別にそんなに此奴に興味無かったんだけどね。」
番のαに対してそんな事を言い放つ彼…。変異Ωになったという駿さんは、本人が言うには普通の家らしいが、叔父や彼らの通っていた学園は有名なα進学校だった。それこそ有力者や財界の子息であるα達ばかりが集う学園。
そういう中での価値観の"普通"だから、そこそこの企業の跡取りではあったらしい。
只、パートナーになった央さんの一族が財閥系で段違い過ぎただけだ。
そんな2人は学園で出会い、互いにセフレの時期が長かった。
関係が変化したのは大学時代。央さんが駿さんへの感情に気づいてから。
そこから駿さんへの固執が始まり、彼以外のパートナーを持つ気が無かった央さんは親や親族達と敵対。
央さんは駿さんを連れて日本を出た。
日本を出てから、いくつかの国を転々としながら暮らした2人だったが、その内駿さんの方も央さんの熱意というか愛情と言うか、執着心というか…それに打たれた…折れた?と言うが…。
「いやもう、こんだけ執着されたら、逃げ切れないなあって。逆に、これだけ愛してくれるならもう此奴でいっかなって。」
「…え、そんな感じで?」
「いや、まあ…そう思う迄には、簡単じゃなかったけどね。でも此奴、執拗いからさ。
わかるだろ?人のバース性を変えるくらいだし。
並じゃないんだよ。」
「…おい…。」
「ホントの事だろ。
ま、それに逃避行中に、俺も絆されちゃって。
別に元々嫌いな訳じゃなかったからね。何か可愛くなってきちゃってさ。
もう、此奴の為にΩになれるならなってやろっかなって。」
でもまさか、マジで変異しちゃうなんてさ~。
と、駿さんは笑っていた。
そうか…α側だけが、一方的なだけでは成功率が極端に落ちるってのはこの辺なのかもしれない。
最終的に、堕とされる側がαの情熱と愛情を受け入れるからこその、ビッチング成功なのか。
俺は暁を思った。
暁も、現状俺に対しては友情以上の特別な感情は無い、ような気がする。いや、無いな。たまにもしかして気があるのか?という雰囲気を感じる事もあるけど、多分俺の希望的観測だろうな。
これ迄 暁は恋人と友人をきっちりわけてきた。
そして、恋人付き合いをする人間以外には余所見をしなかった。
俺が知る限りの暁はそういう人間だ。
そして、ふと閃いた。
という事は、だ。
どうにか既成事実を作れたら、暁は俺と付き合う事に納得するのでは?
大学時代に知り合ってからの事しか知らないが、これ迄フリーの状態の暁が告白されたのを断ったとは聞いた事が無い。
暁は人間不信気味ではあるが、だからこそ心の何処かでは、裏切られない愛情や友情を欲している。
飢えているのだ。
ならば、今俺が告白したら、成功率は結構高いのでは?
この機を逃せばまた暫くしたら暁は恋人を作るだろう、懲りもせず。
そしてまた同じ事を繰り返して傷つくかもしれない。
ここらで俺が負の連鎖を断ち切っても良いのではないか。
暁は何やかや優しいしお人好しな所があるから、ひたすら愛情を注ぎ続ければ、駿さんのように絆されてくれるかもしれない。
いや、多分そうなる。
足元を見るようだが、暁の性格や状況を利用してでも、俺は暁が欲しい。
最終的に一緒に幸せになれれば、全て丸く収まるのではないだろうか。
「まあ、何だね。
バース性やαやΩなんて厄介なモンが無ければ、番基準で考えなくて済むのにね。」
駿さんはそう言って苦笑いした。
「俺はあって良かったと思うがな。
お前を俺だけに余所見もさせず縛り付けておける。」
「…そうだな。お前みたいなタイプの人間には向いてるかもな。」
駿さんは央さんの言葉に呆れたように言った。そして俺に向かって、
「お相手と、上手くいくと良いね。
君達みたいなαに見込まれたら、どうせ逃げられないもんね。」
と言って、華やかに笑った。
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