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世の中には突然、信じられないことが起こる。
例えば今、僕のスマートフォンはブルブル震えて着信を告げている。
その画面には鈴木弘幸と表示が出ている。
「はい」
不信感丸出しで出ると、ハイテンションな男の声が飛びこんできた。
「おお、山田、久しぶり」
「はあ」
「おまえ、今、どこにいるの?」
「本屋」
「どこの?」
「どこって……新宿」
不意打ちはずるい。
とっさに本当のことを答えてしまう。
南千住とか国立とか適当に答えていれば、安全で何も起こらない日々を今まで通り、冬眠中の熊のように過ごせたはずなのに。
「新宿? マジかよ? 今、村上と新宿で飲んでいるんだ。来いよ」
「村上? 村上って、あの村上?」
「そう。村上凛」
「学級委員の?」
「今は学級委員じゃないよ」
女の声が割り込んでくる。
「待ってるから」
はしゃいだ声で大手の居酒屋チェーン店の名前を告げると電話は切れた。
高校の卒業式以来だから、と指を折って数える。
六年の沈黙を破っていきなりかかってきた電話。
それが厄介ごとの始まりだった。
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