僕は君に会いに行くよ

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「待てよ」  待つ理由はこちらには何一つない。  緊張した背中で、振り返ることなく早足で歩く。  宇津木は追いかけては来なかった。  地下鉄へ向かう階段を駆け下りるようにして改札を抜けるとほっとした。  宇津木に言い返した。  手を振り払った。  早足で立ち去ろうとするのを引き戻されていたあの頃、無言でうずくまることしかできなかったあの時とは違う。  僕はもう、宇津木に怯えることはない。
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