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「どうしたんだよ?」
僕にではなく村上に聞いているようだった。
「さあ?」
村上の困ったような声が聞こえた。
「どうしちゃったの、山田君」
「うるさい」
僕は道路に手のひらをつくとよっこらと立ち上がった。
「僕はもうダメだ」
「何だよ」
顔をしかめて宇津木は吐き捨てるように言った。
「相変わらず、何を考えているのか分からないやつだな。気色悪い」
僕は知っている、自分の中の嘘。
目を閉じて顔を拭う。
「大丈夫?」
心配そうな村上の声を振り払うように背を向けた。
「もう帰ってもいいか? 家も決まったし」
「え? ああ、うん。ありがとう。あの、私も帰るから」
「村上」
呼び止める宇津木の声、立ち止まる村上。
追いつかれたくないから大股で振り返りもせず歩く。
夕暮れの光の反射、光と影がくっきりする景色の中で、逆光に照らされた僕の顔はよく見えない筈だ。
うつむいて右手の甲で時折、痛む口の端を抑えると深い赤色の血が付いた。
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