僕は君に会いに行くよ

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どのくらい切れていてどんな顔になっているのかわからないが、確かめたところで傷が治るわけでもない。  一刻も早く二人から離れたくて来た電車に乗った。  指先で何度もなでるようにして血を落とす。  錆びた金属の味がするのは殴られた拍子に自分の歯で口の内側を切ったせいだろう。 ハンカチで抑えるように顔をぬぐい新宿で降りると目についたドラッグストアで絆創膏(ばんそうこう)を買い、ガラスを鏡代わりにして映った顔の口元に貼ってみたが、どうにも目立つ。  三歩ほどそのまま歩いてみたものの、みんながちらちら見ているような気がして結局、絆創膏を剥がしてそのままの顔で歩いた。 こんなにたくさんの人が歩いているのに知っている人は一人も通らない、そのことが心地良いような心細いような変な気持ちになった。
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