僕は君に会いに行くよ

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「オレはお前なんだから」  僕は目を細めて彼を見る。  目の前にいるはずの彼をよく見ようとすればするほど、ぼやけてしまう。 「それを言わないでください」  言えばすべてが終わってしまう。 「もうそろそろ終わりにしないと」 「でも、まだ必要だ」 「どうかな」  黒いカウンターテーブルにはグラスが二つ。  ジントニックとロックのウィスキー。それもぼやけて消えていく。  実際にあるのははジントニックひとつだけだ。  山田さん、もう一人の僕に向かってそっと呼びかける。  着ている服や右手首に光る腕時計は思い浮かんでも、顔は思い出せない。そこまではさすがに作りこんでいなかった。  言葉づかいもたたずまいも、こうでありたいと願うもう一人の僕。 「まだ、必要だ」  もう一度つぶやく。
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