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眠ろうと村上に背中を向けて目を閉じると、かすかに聞こえる呼吸音が僕の中にやわらかくすべりこみ、あらゆるものを膨張させ尖らせた。
ほんのかすかな身じろぎも、空気の振動とわずかな音で感じてしまうくらいに何もかもが敏感になっていて、とても眠れそうにない。
酔いはとっくにどこかへいってしまい、不快な満腹感だけが胸から腹にかけて残っていた。
身体も心も、なにもかもすっきりしない。
僕は右手でがりがりと頭を掻いた。
何なんだ、いったい。
考えるなよ。
事実だけ受け止めてさらりと流せば面倒に巻き込まれることもない。
そうだ。たいしたことは何も起こっていない。
偶然会って、たまたま飲むことになった、眠る場所を一晩だけ提供した、それだけのことなんだ。
そこにどんな思惑があろうとも、全部知らん顔をしていればいい。
朝になれば、さよならだ。
それで、全部お終いだ。
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