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「家っていいね。あ、人の家だけど」
村上はまぶしそうに目を細めて窓の方を見た。
外はすっかり青空が広がっている。
「たいしていい部屋じゃないけどね」
「家があるってあたりまえだと思ってた」
ぽつりと村上が言う。
「今まで周りに家がないって人、いなかったから。あ、持家って意味じゃなくて住む場所って意味でね。ホームレスって言葉は知っていたし、東京に出てきて実際に駅で座り込んだまま寝ている人や橋の下に本ブルーシートを張って生活している人も見かけたけれど実感がわかないっていうか、自分とは違う世界のものみたいに思っていたわけ。まさか、自分がね、そんなふうになるとは思わなかった」
聞くつもりはなかったのに、始まってしまった。
こういう場合はどうしたらいいんだ?
僕はまだ何の覚悟もしていないのに、聞くしかないのだろうか。
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