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「それで結局何もしなかったのか」
ショットバーの黒いカウンターテーブルは清潔な光を放っていた。
「当たり前です」
答えながら自信がなくなっていく。
「何か、するべきだったんでしょうか……」
「だって、そのせいでもやもやしているんじゃないの? 少なくとも凛ちゃんは鈴木より君を選んだんだぜ? ぐだぐだ思い悩むよりやっちゃった方が早かったのに。それに、君と凛ちゃんがそういう仲になれば全部丸く収まるじゃないか。君には彼女ができて、彼女は住む家を手に入れる。めでたしめでたし」
「全然、めでたしめでたしじゃないですよ。それじゃ、誰も幸せにはなれません」
「そうかなあ」
「そうですよ」
僕はグラスに刺してあるライムをつまみあげ、三本の指できゅっと絞った。青臭い酸っぱい匂いがたちのぼりグラスに半分残っていたジントニックが泡立った。
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