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同じ名字の人と二人で一緒にいると変な気分だ。
もっとも顔を合わせている時にそのことを意識することはない。
僕たちはお互いに名字を呼ばないように用心深く会話を進めていくのにすっかり慣れている。
「彼女とはそれきり?」
「それきりです。」
「それがきっかけで付き合うようになったとか連絡を取り合うようになったとか」
「ないですね」
「でも気になるんだ」
「そりゃ、そうですよ。だって自分の知り合いの女の子にホームレスになったって打ち明けられたらどうします? やっぱり心配じゃないですか」
「連絡がないのは無事な知らせ、と思うしかないんじゃない? 女って意外とタフだぜ」
「まあネットカフェとか二十四時間ファミレスとか夜を過ごすところはたくさんありますけど。でもなんか、ちょっとショックだったんですよね」
「ちょっとじゃなくて、かなりなんじゃないの?」
「まあ、そうですね」
僕はしぶしぶ認めた。
「ニュースや雑誌でそういうことはよく聞くけど、実際に自分の知っている人がそんなふうになってしまった、っていうのはちょっとね。彼女は学級委員をしていたような子だったから」
「へえ。じゃあ、逆にもしかしてちょっと優越感とか感じちゃった?」
不意に顔を覗き込まれ、僕は目を逸らせた。
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