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「で、謎は解けた?」
「謎なんてない、と思うのが正解だと思えて来ました」
「本当に?」
彼はミックスナッツの入った皿を引き寄せ、ナッツを指先で転がす。
「酷いな。オレは前回、話を聞いてからずっと考えていたんだぜ」
「それで」
僕は思わず水を飲む。
「何か、わかったんですか?」
「わかりゃしないよ。ただの想像だもの。でも、聞きたい?」
「はい」
反射的に答えていた。
聞けばまた考えてしまう。
そんなことは十分わかりきっていたはずなのに。
「例えば朝、君が会社に行くために外へ出たら、オレがいたらどう思う?」
彼は持っていたピスタチオをお皿にカツカツと小さく打ちつけながら言う。
「驚きますね」
用心深く、僕は答える。
「何だ、君、ここに住んでたんだ。へえ。偶然だね。斜め向かいのパン屋にパンを買いにきたんだけどさ。知ってる? ここのあんパンかなり有名なんだ」
「それは知らなかった。っていうより近くにパン屋なんかないですよ」
「例えばの話さ。どう思う?」
「嘘だ、って思いますね。僕の住んでいる場所を調べて出勤時間に合わせて来たんだ、って」
「偶然が重なったらそれはもう偶然じゃない。そもそも偶然なんてどこにも起こっていない」
彼は楽しそうにグラスの中の氷を転がす。
「さあ、どうする?」
鈴木の思惑。
村上の思惑。
絡まって重なって。
でもどうして、と僕は思う。
そこに僕が参加しなくちゃならないんだ?
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