僕は君に会いに行くよ

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               *  全部忘れる。  それが今の僕にできる、唯一の抵抗だ。  全部なかったことにして、知らんふりをする。  それだけで全部、元通りになるはずだ。  今までだってそうやって、生きてきたんだ。  それでも電車の単調な揺れに身を任せていると、村上と鈴木のことをついつい考えてしまう。  そんな日が続くといささか疲れる。  だからだろう、斜め前に立っている男が見覚えがあるような、そうだ宇津木翔に似ているのだなんて思い当たるのは。  村上がカケルの名前を出したりしたから、そのせいで斜め前に立っている男が宇津木翔に似て見えるのだ。  宇津木が東京にいるわけはないし、電車の同じ車両に乗り合わせる偶然なんて起こるわけがない。 「宇津木翔、覚えてる? あいつと会ってダメになった、そんな気がする」  あの日、村上はそう言った。  村上はいつどこで宇津木に会ったのだろう。  グレーのストライプの入ったスーツを着た、背の高い宇津木に似た男を見ながら、そんなことを考えていた。  似ているなあ。  あごのラインや偉そうにあぐらをかいた鼻の感じ。  まさか、本人じゃないよな。
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