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本人。
あの宇津木でもスーツを着るのだろうか。
二十四歳という年齢を考えると、スーツを着ていてもおかしくはない。
おかしくはないが、想像できない。
宇津木は細くて長い銀色のナイフみたいなやつだった。
なるべく顔を合わせないようにずいぶん気を付けていたけれど、それが裏目に出て通りすがりにすぱりと切られたような痛みを味わう事が多かったように思う。
その痛みは言葉だったり拳だったり尖った爪先だったりしたが、いつも僕の柔らかい部分を深くえぐった。
数週間にも及ぶような痛みがじんわりと薄れてきた頃に、また新たな痛みが加わり、癒えない傷となる。
今でもまだ傷は疼く。
だから宇津木に似た男を見かけただけで、体中が本能的に警戒するのだ。
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